第6回:不安を補うのは、親の変わらぬ思い
早樫 一男

子どもの姓の選択は?
最近、離婚家族や再婚家族に出会うことが多くなりました。では、子どもの「姓」は、どうなっているのでしょう。ちょっと考えてみました。
親が離婚や再婚を繰り返している相談に出合うと、「子どもの『姓』はどうなっているのだろう?」といつも気になります。離婚した母親に引き取られた場合、なんとなく、母子ともに母の旧姓に戻ると考えがちです。しかし、子どもの年齢や家族の置かれている状況によって、選択肢はさまざまです。たとえば、子どもが就学していたら「子どものことを考えて……」と離婚前の夫姓のままという選択もあるでしょう。母親だけが旧姓に戻るということもあるかもしれません。戸籍上は旧姓に戻るけれども、学校ではこれまでどおりの呼び方という選択もあります。
再婚の場合、親の再婚相手やその子どもとの家族関係(お互いの呼び方・呼ばれ方)、住まい(転居)や学校(転校)に伴う地域での関係や友人関係など、さまざまな課題に否応なく向き合います。時間をかけて、一つひとつを克服していくということになります。また、離婚と再婚の経過の中で、子どもは再び「姓」の問題に直面することになります。新しい姓(呼ばれ方)になじむことが、時には大きな課題なのです。私が「姓」がどうなっているの? と関心を示すのは、個人的な理由が深く関係しています。小学校のころ、父方姓から母方姓(早樫)に変わったという経験があるからです。父が、四人姉妹の長女である母の実家への養子を決めたのです。その日を境に呼ばれ方が変わりました。それはとても不思議な感覚でした。「早樫」に慣れるのには時間がかかりました。いままでとは違う何かが起こっているという感覚があったのかもしれません。
「姓」の変更は自己イメージ(アイデンティティー)や友達関係など、多様な面に影響を及ぼします。子どもにとっては、これまでの自分が「切断」される節目と受け取るかもしれません。目に見える形の変化や不安定さを補うのは、わが子はかけがえのない存在であるという、親の変わらぬ思いであり、親子の絆の連続性ではないでしょうか。
いきいき通信2007年6月号掲載