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運命を変える三つの言葉 -しあわせデッサン vol.2-

諸井 理恵 山名幼稚園理事長・園長
天理教山名大教会長夫人


言葉が閉じ込められた

作文が苦手、嫌いだという人は、私の周りに結構多いようです。

主人も、「ぼくは」とだけ書いた後、まったく書き進められない小学生だったといいます。いまは必要に迫られて、大いに書き、話す仕事をしています。人間は、いつ、どんなスイッチが入るか分からないものだなあと、主人が流暢に話す姿を見るにつけ、わが子の成長に希望を持ち続けようと思っています。
私はといいますと、内気な子供だったこともあって、絵や手芸、文章などは、自分を表現する大切な手段でした。

ところが、四十歳を過ぎたある日、幼いころから当たり前のように入りっぱなしだったスイッチが、突然に切れてしまう体験をしました。

朝、目が覚めたときから、言葉の出づらさに違和感を覚えていました。近くに住む実家の母に電話をかけたところ、突然、言葉が途切れてしまったのです。主人にもかけましたが、言葉が思うように出ず、「メールならば」と文字を打とうとしますが、一文字も打てません。仕方なく紙に文字を書いて長女に状況を伝えようとしますが、ペンを手に、一文字も書けないのです。

「言葉が閉じ込められた!」
私は打つ手なしの絶望感に襲われました。
いったいどうなってしまったのかと、うろたえるなか、電話を不審に思った母が飛んできてくれました。それから間もなく、私は倒れて意識不明となり、母の連絡によって救急搬送されたのです。

原因は脳にありました。左脳の言語野に腫瘍のようなものがあり、なんらかの影響で言葉の出力ができなくなった、一時的な症状でした。
当初は悪性とされていた腫瘍らしきものも、手術と多くの方々の祈りによって大事に至らず、こうしてスイッチを入れ直していただいたのです。話す、書くという機能を残してくださったのは神様の特別なお計らいだと自覚し、以来、自分にできることを精いっぱいさせていただいています。

かわいい姑さん

言葉というのは、自分と外の世界とをつなぐ大切な手段です。その言葉のスイッチが切り替わったことによって、運命までも変わったという人のお話を紹介します。

仕事の傍ら、夫婦仲良く畑で野菜を育てては、「人に喜んでもらえるのがうれしい」と季節の野菜を届けてくださるご夫妻がいます。奥さんは嫁いだ当初から、姑さんに大変つらく当たられていました。ところが、そのきつい姑さんが、晩年になって認知症を患いました。
長年つらく当たられてきた揚げ句に、その姑さんの認知症に向き合うことは、さぞかし受け入れがたいことではなかったかと奥さんに伺うと、「いや~、もう、かわいくて、かわいくて」と、意外な答えが返ってきました。

どういうことかと聞いてみると、認知症になってからの姑さんが奥さんに対してかける言葉が、「ありがとうね、ありがとうね」と「ごめんね~、ごめんね~」、そして「しあわせ~、しあわせ~」の三つだけになったというのです。そんな姑さんを、奥さんは最後まで「かわいい、かわいい」と言って共に暮らし、姑さんは寝込むことなく一生を終えることができたそうです。

認知症になると脳の機能が低下し、言葉数が減り、無表情になるなど、周囲とのコミュニケーションが取りにくくなる方が多いようです。
この姑さんに神様が残してくださった言葉は、たった三つでした。しかし、この三つの言葉が、奥さんと姑さんの運命を変えたといっても過言ではないでしょう。

言葉を覚え始める幼児期の子に、親がまず教える言葉に「ありがとう」と「ごめんなさい」があります。生涯にわたって使う大切な言葉だから、何度も何度も繰り返し教えるのでしょう。その二つに加えて、「しあわせ」も、覚えておくといい素敵な言葉ですね。

いきいき通信2018年9月号掲載