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出会いを楽しむ人生の旅

諸井 理恵 山名幼稚園理事長・園長
天理教山名大教会長夫人


ヒッチハイク

「静岡方面まで乗せてもらえませんか?」
三重県の御在所サービスエリアで休憩し、車に戻ってきた私に声をかけてきた20代前半の青年2人。聞けば、九州まで旅行した帰途、京都から東京までヒッチハイクで帰ろうということになり、ここまでは乗れたが、この先なかなか乗せてもらえる車がなくて困っているとのこと。
私の車の後部座席は2つとも空いており、どうぞお乗りくださいと言わんばかりに、まるでスタンバイ中のよう。
「そうね、いいよ。浜松までだけど、どうぞ」

1年前の3月、こうして浜名湖サービスエリアまでの114キロの道中を、この2人の青年と共にしました。
車中では終始会話が弾み、いつもは1人で音楽でも聴きながら走る時間が、初対面の2人の青年によって思いがけず楽しい時間となりました。
人が旅に出る理由や目的はいろいろでしょうが、旅先で出会う人との交流を楽しみにしている人もあります。若い人たちがヒッチハイクをあえて選ぶ理由は、この「人との出会い」にあるのかもしれません。

後日、A君のSNSには、すてきなお礼のメッセージが並びました。
「……京都からはヒッチハイクで帰りました。これがめちゃくちゃ面白かった。
『腕にタトゥーを入れている建設業の社長さん』
『天理教の信徒さんで、めちゃフレキシブル(柔軟)な考えを持っている幼稚園の園長さん』
『浜松から東京へ単身赴任をしている2児のお父さん』
いろんな人と出会って、いろんな話ができました。皆さん優しくて、本当によくしてくださり、ありがとうございました。これまで人からしてもらった分、今度は自分から人に何かをしてあげられる人間になりたいです」

彼らに何をどう話したのか忘れてしまいましたが、私には「フレキシブルな園長」というキャッチフレーズがついたことに笑ってしまいました。どうやら若い彼らにもいろいろあって、人生の切り替えをする旅だったようです。

3歳児の心

人生はよく旅に例えられます。異なる文化、業種、年齢の人と、新たに交流を持つことを避けずにさえいれば、旅はもっと豊かになります。

3歳児の年少さんはよく、幼稚園を訪れるお客さんに「だれ?」と言いながら寄っていきます。「知らない人と簡単にしゃべってはいけません」という大人の老婆心をよそに、見るもの、会う人に興味津々で近づきます。
良識は必要ですが、偏見を持たないということも大切で、心を開いていろいろなことに興味を持てば、新しいことを学ぼうとする意欲の扉が次々と開かれます。何歳になっても、いつでも出会いを楽しみたいと思う、好奇心いっぱいの3歳児の心ならば、旅(人生)はきっと楽しいものになるでしょうね。

職場や学校で、また家庭やご近所で、私たちは知らず知らずのうちに、「いつものメンバー」とばかり向き合っていることが多いものです。そのために、いつもの思考パターンで苦しんだり、いつもの行動パターンで諦めたり、変化のない人間関係のなかで考え方を縛られていることはないでしょうか。もし、その場所で自分を偽って、喜びが感じられなくなってしまっているのなら、旅に出るように、その場所や人といったん距離を置いてみることも、あっていいと思います。

春、これから新しい環境に飛び込もうとする人には、期待とともに不安がつきものです。けれども、これから出会うさまざまな人は、いろいろな意味で自分を育ててくれる大切な人たちです。変化を恐れず、出会いを楽しむ心で自分から声をかけていくヒッチハイクのような人生の旅は、何歳になっても始められると思いますよ。

いきいき通信2019年3月号掲載