パンプキンタイム-幸せへの四重奏vol.25-
元渕 舞

14年前、長女のさくらが生まれたとき、私は迷わず一番好きな花の名前をつけた。
7年前に次女のはるが生まれたときも、一番好きな季節を選んだ。昨年、小学校に入学したはるは、土曜日に通う日本語学校で、自分の名前が「春」であると初めて気づいたらしい。
はるは授業で、親の職業の話題になったとき、「パパはピアノの先生で、ママのお仕事は知りません」と答えたそうで、学校から帰ると「ママのお仕事は何?」と聞いてきた。
私は自分が教える音楽院にはるを連れていくこともあるので「ママの学校があるでしょう。あそこで音楽を教えているんだよ」と教えた。「ママの学校」と呼んでいたことから、はるはずっと私が生徒だと思っていたらしい。
考えてみれば、知らないのも無理はない。私は、家でのレッスン中は娘を部屋に入れたことがないし、音楽院で授業している姿も見せたことはなかった。
さらに私が「いつもママのコンサートに来ているでしょう。ママはコンサートで演奏することもお仕事なのよ」と話すと、はるは「あれがお仕事なの?」とびっくりしていた。どうしてかと聞くと「だってママは演奏中、楽しそうだもん」と答えた。
「仕事=しんどいこと」というはるの考えに苦笑しながらも、働くママにとってはうれしい娘のコメントだった。
音楽院の近くにさくらの高校があり、先月、さくらが学校の帰りに音楽院に立ち寄った。「ママが先生しているところを見たい」という。私は「ごめんね。ママはここではさくらのママではなく、生徒たちの先生なの。生徒たちに私の全部をあげる時間なの。だから授業が終わるまで待っていてね」と諭した。
授業が終わると、私は生徒たちに「パンプキンタイムがきた」と言った。これは、シンデレラが12時の鐘が鳴ると同時に元の姿に戻る様子が、私が音楽家という仕事を終えてママに戻るのに似ていると連想して言ったことだ。
家には仕事を持ち込まないのが私のモットーだ。自分の練習も、子供たちが学校に行っている間に取り組むようにしている。家では、私はエレンの妻で、さくらとはるのママなのだ。
帰りの車の中で、さくらと今日学校であった出来事をしゃべりながら、私は音楽家からママに戻る。
天理時報2019年10月27日号掲載