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一期一会-幸せへの四重奏vol.24-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者


年が明けてすぐに、私は香港へ2週間の旅に出た。ここの音楽祭に出演するのは3年ぶりだが、たった3年しか経っていないのに香港は見違えるほど変貌していた。100メートル以上の超高層ビルはニューヨークの3倍あり、現在、世界でトップだという。
ここへ来る寸前まで家族と休暇を取っていたせいか、私は久々に家族を置いて遠くへ行くのが嫌で、飛行機の中でも心が引き裂かれるような思いだった。
家族がいつまでも手を振って見送ってくれているのを見て、「私はなぜ家族と離れて、こんな遠くまで行かなきゃならないのか」と思う一方で、私をわざわざこの遠い音楽祭に呼んでくださったことをありがたくも思った。飛行経路を見ると、日本からすぐのところを飛んでいる。こんなに近くにいるのに実家に帰れない切なさも感じた。
結婚して家族ができたものの、演奏旅行でしょっちゅう寂しい思いをしていたが、そんなとき、いま私の周りにいる人たちも、誰かの大切な人なのだと気づいた。そして、私がこの人たちを大切にすれば、離れている私の家族もきっと周りの人たちが大事にしてくださるだろうと思った。
音楽院で出会った生徒たちにも、その子の親の立場になって、自分の子供のように心をかけてきたつもりだ。アメリカでは大学入学を機に、ほとんどの子は親元を離れる。将来、娘たちが家を離れるときのことを思うと、周りの人たちに娘を大事にしてもらいたいと願う親の気持ちがよく分かるからだ。
この香港でも、出会う人たちは、誰かのかけがえのない家族だ。そう思うと、どんな出会いも無駄にしてはいけないと思う。
最初のリハーサルのとき。ドアを開けると、学生時代に一緒に音楽祭に参加したバイオリニストや、十数年前に同じ賞を受賞した仲間もいて、しばらく会わなかった間に音楽家として成長していたのが分かり、うれしかった。彼らも家族を置いてきていた。
いつかどこかで会えるかもしれないなんて、以前は考えたこともなかった。再び音楽を共に作れる機会を与えていただいたことに感謝し、どこでまた出会えるのか楽しみになった。
音楽祭に来てくださる人たちも同じだ。同じ空気の中の同じ音を聴き、一緒に楽しむ時間を過ごすことが、またあるかもしれない。そう思うと、一期一会、これからも人との出会いを大切にせずにはいられない。

天理時報2020年1月26日号掲載