vol.27 失敗から得た知恵を若者へ
金山 元春
前回は、自分が歩んできた人生に意味を見いだし、自分なりに納得した幕引きを迎えるという、高齢期の発達課題について取り上げました。
その際、人との関わりから生じる事情の中には、人間の知恵力では如何ともし難く、神様にお守りいただくしかないことがあると記しましたが、これは、人間の知恵や努力を否定するものではありません。神様のご守護のもとで、人間が積み上げてきた研究の成果から学べることはたくさんあります。
そこで今回は、高齢期の人間関係に示唆を与えてくれる研究を、いくつか紹介します。
ある研究では、高齢者が自分の生きた証しとして、長年の経験から得た知恵や技術をもって次世代を助けようとする行動は、高齢者自身の幸福感を促し、長寿に影響すると報告されています。しかし時には、高齢者が良かれと思ってしたことが次世代にとっては余計なお世話となり、若者の拒否的態度を生むことがあります。すると高齢者も若者を非難するようになり、結果として、世代間の隔たりが広がってしまう場合があります。
高齢者が自らの人生に意味を見いだしながら、心身ともに健康な生活を送るためには、良かれと思って取った行動が、次世代から受け入れられる必要があるのです。
特に心理学の研究結果からは、高齢者が若者から「感謝された」と感じることが、高齢者の心身の健康にとって重要であることが分かっています。また別の研究では、若者は高齢者から、成功経験よりも失敗経験を基にした知恵を教わったほうが、高齢者に対して感謝しやすいと報告されています。
次世代を育てるために、自らの失敗について語るという行為は勇気のいることであり、時につらいことでもあります。だからこそ高齢者自身が、その意義を感じることができるのでしょう。そこに次世代からの感謝が伴うと、その思いはさらに強くなり、「あの失敗も無駄ではなかった」と、自らの人生に肯定的な意味を見いだすことができるのだと思います。
私も、次世代のために自らの失敗を素直に語ることができる素敵な高齢者を目指したいのですが、いまのままでは心もとないところがあります。まずは、高齢期にある先輩たちの語りに耳を傾け、感謝の気持ちを伝えながら、その知恵に学ぶことから始めたいと思います。
天理時報2020年4月19日号掲載