vol.28 〝偶然〟を人生に生かす
金山 元春
受験シーズンを経て、新年度になりました。新入生には新しい出会いを楽しんでもらいたいと思います。
さて、近ごろは受験の機会がどんどんと早まり、高校や中学校にとどまらず、小学校や幼稚園に入るための〝お受験〟も盛んになっています。その背景には、子供の成功や幸せのためには、人生の早い段階から計画を立て、それを着実に実行していかなければならないという親の考えがあるのかもしれません。
「子供が幸せになるための道を用意してやりたい」というのは当然の親心であり、その気持ちを否定するつもりはありません。私も子供を育てる親ですから、わが子に「こうなってほしい」という期待を持っていますし、それを口にすることもあります。ただし、それが強くなり過ぎて子供を縛りつけることがないように気をつけてはいます。
心理学には、人生を計画通りに進めないといけないという意識が強すぎて、それに縛られてしまう人は、かえって幸せになりにくいという考え方があります。
これは、アメリカのクランボルツ博士が提唱した「計画された偶発性理論」から生まれた考えです。人生には〝偶然〟の出来事や〝たまたま〟の出会いがあふれています。この理論では、そのときどきに起こる出来事や出会いを大切にし、それをうまく人生にかせる人が幸せになりやすいと考えられています。
偶然やたまたまと聞くと、行き当たりばったりのように思うかもしれませんが、そうではありません。この理論では、偶然をただ待つのではなく、いろいろな出来事や出会いを人生の可能性を広げるチャンスへと変えていけるように、普段からアンテナを張っておくことを強調しているのです。
そのアンテナとして働くのが、次に挙げる五つの姿勢です。
①好奇心。いろいろなことに興味を持って、新しい学びの機会を探し続ける ②持続性。困難に負けず、努力し続ける ③柔軟性。状況によって態度や環境を変えられる ④楽観主義。チャンスはやって来ると信じて、それを達成できると見なす ⑤冒険心。失敗を恐れずに行動を起こす 。
こうした姿勢でいれば、必ず幸せになれるというわけではありませんが、10年20年どころか数年先のことも予想できない変化の激しい時代を生きる子供たちにとっては、身に付けておきたい資質です。子供の人生設計も重要ですが、親として、こうした資質の育成にも努めたいですね。
天理時報2020年5月31日号掲載