vol.29 巡り合わせに感謝する
金山 元春
前回は、いろいろな出来事や出会いを、人生の可能性を広げるチャンスに変えていけるように、普段からアンテナを張っておくという〝計画された偶発性理論〟を紹介しました。そして、そのアンテナとして働く姿勢について取り上げ、変化の激しい時代を生きる子供たちに身につけてもらいたい資質についても論じました。
この理論はアメリカのクランボルツ博士が提唱したものですが、日本の心理学者である諸富祥彦博士は「ご縁を大事にする生き方」と表現しています。特に諸富博士は「祈りと感謝の心を持つ」ことを強調しています。
ある出来事や出会いがもたらされたとき、「私が頑張っているのだから当たり前だ」「幸せになれて当たり前だ」という傲慢な心構えでいると、人生はどんどん先細っていきます。逆に、感謝の心を持って「今日もこんな人と出会えてありがたい」「こんな出来事に巡り合えてありがたい」という気持ちで生きていると、すべてがチャンスに思えてくるものです。諸富博士は、幸運は単なる偶然ではなく、自分に与えられたご縁に感謝の念を持って生きている人にもたらされるものと説いています。
これは、私自身の人生を振り返ってみても納得できます。現在の自分のことを10年前、20年前に予想できていたかというと、そんなことはありません。もちろん人生設計はしていましたし、そのための努力もしてきたつもりです。ただ、何もかも計画通りではなく、本当に不思議な巡り合わせとしか言いようのないことが続いて、今ここに至っているというのが正直なところです。
その道中で私を支えてきたものは信仰です。一般には偶然とされるような事柄が生じたときも、信仰のおかげで、その意味を丁寧に考えることができました。特に、つらく悲しい出来事に直面した際には、それを人生の節目と受け取り、祈りと感謝の心を持てたときに、人生が大きく転回し、そこから飛躍するという経験をしてきました。
だからといって、まだ幼い子供に「祈りと感謝の心を持て!」と説教するつもりはありません。親である私自身がそうした姿勢を心がけ、幸せな人生を歩んでいる姿を見せることができたなら、子供もきっと何かを感じ取るだろうと信じています。
天理時報2020年7月12日号掲載