vol.32 人の心の奥深さを知る
金山 元春
私は大学で心理学を教えています。私の職業を知った人からは、「心理学の先生だったら、人の心が分かるのですか?」と尋ねられたり、「私が何を考えているのか、当ててみてください」と言われたりすることがあります。また昨今、大学では心理学専攻の人気が高く、毎年多くの受験生が集まります。
人の心というものはかたちがなく、見えないものです。それだけに不思議で、多くの人が興味や関心を持つのでしょう。また、人間関係は複雑ですから、誰もが「あの人の本心が知りたい」「本音ではどう思っているのだろう?」と、心のどこかで不安を抱えているものです。世の人々は、心理学がそうした思いに答えてくれると期待しているようなのです。しかし心理学者でも、人が何を考えているのかを当てることはできません。なぜなら、人の心はとても奥深いものだからです。
「みかぐらうた」に「ひとのこゝろといふものハ ちよとにわからんものなるぞ」(十下り目一ッ)とあります。「あの人はああいう人だから」と分かったつもりになったり、「あの人はこう思っているに違いない」と決めつけたりしがちな私たちに、親神様は、人の心というものは、そんなに易々と分かるものではないと教えてくださっているように思います。
また、このお歌は、相手に対して「どうして分かってくれないの?」と不満を抱えやすい私たちに、人の心は複雑なので簡単に分かってもらえるものではないから、相手を変えようとするよりも、まずは自らを省みるように、と教えられているようにも受け取れます。
これは心理学を学ぶ際にも大切な姿勢です。
大学で学ぶ心理学は、他人の心を読んだり、相手を思い通りに動かしたりするための道具ではありません。むしろ、心理学を学び、人の相談に応じるための専門的訓練を受けた者は、人の心の奥深さを知るからこそ安易に人を決めつけることなく、相手の理解に努め、良好な関係を築くために自分ができることに力を注ぎます。
その訓練の過程において、自分の癖や性分に気づき、自らを変えていくことが求められます。これは簡単なことではありませんが、心理学をはじめとする学問や、先人たちの知見に学びながら、少しずつ歩みを進めていきます。このエッセーでお伝えする心理学の知識や人と関わる知恵も、そうした姿勢で読み取っていただけたら幸いです。
さて、いまは受験のシーズンです。大学では、高校生はもちろん大歓迎ですが、社会人も受け入れています。また正規の学生として入学しなくても、科目履修生として希望する授業だけを安価に受講できる制度もあります。志ある方は、大学で心理学を学んでみませんか。
天理時報2020年12月13日号掲載