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宗教から見た世界 「悲嘆」を「希望」に変えるとき

島田 勝巳天理大学宗教学科教授


 来年1月、米国第46代大統領に就任するジョー・バイデン氏は、J.F.ケネディ以来、二人目のカトリックの大統領となる。ケネディ家と同じくアイルランド系の出自を持つバイデン氏は、敬虔なカトリック信者として知られてきた。今日の米国社会の深刻な分断という現実を前に、ケネディの時代以上に、バイデン氏の政治信条を支える信仰信念が鍵を握ることになるかもしれない。

 バイデン氏は1972年から、オバマ政権の副大統領時代を含め、長きにわたって米国政治の中枢にいた人物である。実は上院に初当選したこの年、彼は最初の妻と幼娘を交通事故で亡くしている。さらに2015年には、政治家として彼の後継を期待されていた息子を、脳腫瘍で亡くしている。

 あるインタビューの中でバイデン氏は、こうした家族の悲劇を乗り越えられてきたのは、自らのカトリック信仰によるところが大きかったと語っている。「悲嘆」を「希望」に変える道は、信仰があったからこそ拓かれたのだと……。

 こうしたバイデン氏の信仰信念は、彼自身の家庭的な事情のみならず、彼の政治理念をも根底から支えるものでもある。先の勝利宣言の中で、バイデン氏は次のように語った。「すべてのものには時があります。建てるに時があり、収穫するに時があり、植えるに時があり、癒やすに時があります。今の米国は癒やす時なのです」
 旧約聖書「コヘレトの言葉」から引用されたこの一節は、信仰者としてのみならず、政治家としてのバイデン氏の一面をも照らす言葉である。選挙戦を通じて両陣営の対立が深まり、その結果は米国の分断の根深さをあらためて浮き彫りにした。こうした状況のなか、彼は国民を二分する敵対的な感情を癒やし、和解への険しい道のりを共に歩みだそうと呼びかけたのである。

 もちろん、政教分離を国是とする米国において、自らの信仰信念に基づき政策決定を行うことは強く戒められる。だが現実には、それらを厳密に分離することなど、おそらくは不可能だろう。むしろ、具体的な政策決定において、価値や規範の意義があまりにも蔑ろにされてきたこの4年間があったからこそ、「悲嘆」を「希望」に変えるというバイデン氏の言葉は、より一層輝きを増すのではないだろうか。

天理時報2020年10月25日号掲載


天理時報2020年10月25日号掲載