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〝関西王者〟として大学選手権4強進出-天理大学ラグビー部-

1月2日(土)秩父宮で明治大に挑む-天理大学ラグビー部-

大学日本一を目指す天理大学ラグビー部は今季、創部初の関西リーグ5連覇を達成し、7大会連続29回目の大学選手権出場を決めた。
12月19日、東大阪市の花園ラグビー場で行われた第57回「全国大学ラグビー選手権大会」の準々決勝にシードで登場した同部は、強豪・流通経済大学を相手に78‐17と大勝。1月2日に東京・秩父宮ラグビー場で行われる準決勝へ3年連続の進出を決めた。

 12月19日、シード校として、花園ラグビー場で選手権の初戦を迎えた。対戦相手は関東大学リーグ戦グループ2位の流通経済大学。天理大にとって、練習試合を含め、今季初の関東勢との試合となった。

「ダイナミックラグビー」を掲げる流経大は、今シーズンのリーグ戦で1試合平均48得点を挙げる攻撃力の高いチーム。13日には選手権3回戦で筑波大学と激闘の末、引き分けによる抽選で準々決勝へ勝ち上がってきた強豪だ。

 試合は天理大ボールでキックオフ。前半8分、敵陣22メートルライン付近のラインアウトを起点に、テンポよく連続攻撃を仕掛けてゴールに迫り、アシペリ・モアラ選手(3年)のトライで先制。続く11分には、副将のシオサイア・フィフィタ選手(4年)が相手ディフェンスラインを突破。敵陣深くまで入ると、タックルを受けながらマナセ・ハビリ選手(1年)にオフロードパスをつないでトライ。14‐0とリードを広げる。その後も攻撃の手を緩めない天理大は次々と追加点を挙げ、38‐0で後半へと折り返す。

 後半も攻守にわたって高い集中力を見せ、主導権を渡さない。終盤、意地を見せる流経大に得点を許したものの、展開ラグビーで相手を圧倒。前後半ともに6トライずつを決め、78‐17で大勝。〝関西王者〟の貫禄を見せつけ、3年連続の準決勝進出を決めた。

応援受け活動再開

 昨年度の「全国大学ラグビー選手権大会」準決勝で早稲田大学に敗れ、ベスト4に留まった同部。4月、新チームは松岡大和主将(4年)のもと、総勢171人の大所帯でスタートを切った。

「緊急事態宣言」が発出されている間は活動自粛を余儀なくされたが、6月11日に練習再開。夏恒例の菅平合宿や秋の関西リーグに向けてチームは準備を進めていた。

 ところが、8月12日に部員が新型コロナウイルス陽性と判明。すぐに練習を中断したが、部内で感染が広がり、最終的に62人が陽性と診断された。

 この一件が各種メディアで報じられると、大学や天理市に非難や中傷の電話やメールが複数寄せられた。

 松岡主将は「これから夏合宿で関東の強豪勢と力試しをしようというときに、〝まさか自分たちが〟と途方に暮れた」と振り返る。その一方で「合宿前で良かったとも思えた。もし合宿中に判明したら、多くの人に迷惑をかけたかもしれない。また、感染者の中から重症者が出ることなく、軽症か無症状で済んだことも本当にありがたかった」と話す。

 心ない声があった半面、それを上回る多くの応援のメッセージが大学や部員のもとに寄せられた。天理大の他の運動部員から応援動画が送られてきたり、「コロナをタックルでやっつけてください!」などのエールが書かれた、天理市内の少年ラグビースクールの子供たちからの寄せ書きをもらったりした。

 こうした応援の声を、部員のLINEグループで共有。松岡主将は「これだけ応援してもらっているのだから、活動再開を信じて前を向こう」とメンバーに声をかけ続けた。また自粛期間中、フィフィタ選手を中心に、ZOOMを利用したオンライントレーニングも行った。

 フィフィタ選手は「オンラインでのトレーニングは、練習再開へ向けての体力維持の意味もあるが、こうした期間にコミュニケーションを取ることが大切だと思った。画面を通じて、みんなの表情を見ることができてうれしかった」と述懐する。

 トンガ生まれのフィフィタ選手は、身長187センチ・体重105キロの体格ながら50メートル6・2秒の快足。持ち前の突破力で相手ディフェンスラインを破るプレーを得意とする。そんな超大学級の彼は昨年2月、世界最高峰リーグの一つ「スーパーラグビー」に参戦中の日本チーム「サンウルブズ」のメンバーに選出され、現役大学生で唯一、全試合スタメン出場。国際舞台で経験を積んだことで、強引な突破だけでなく、周りを生かすプレーも身に付けた。日本に帰国すると、副将に抜擢された。

勝つことで恩返しを

 9月10日、陽性者の入院や陰性者の経過観察、関連施設の消毒などの対策を経て活動を再開した同部。小松節夫監督(57歳)は「多くの方々に応援していただいて活動できていることを、スタッフ・部員ともども、あらためて実感した。活動再開にこぎ着けられたのは、大学はもとより、教会本部や天理市などから献身的なご協力を頂いたおかげ」と感謝の言葉を繰り返す。

 活動再開後は強化練習の傍ら、天理警察署による特殊詐欺防止ポスター作製への協力や、並河健・天理市長らと共に市内の側溝の泥上げ作業などの、地域貢献活動にも積極的に加わる。

 また、週に一度、早朝からの市内のごみ拾いを続けている。なかには、決められた日以外に自ら進んで清掃活動をする部員も少なくない。小松監督は「部員の多くは天理教の信仰者ではないが、自ら進んで行動する姿は、親里でお道にふれるうちに、ひのきしんの精神が身に付いてきているからではないか」と語る。

 11月7日、関西リーグが開幕した。同部は3戦全勝で29日の優勝決定戦に臨むと、名門・同志社大学相手に54‐21の大差で勝利し、創部初のリーグ5連覇を達成した。

 松岡主将は「この4年間、全国大会で悔しい思いをしてきた。先輩たちが積み上げてきた思いと、支えてくださった多くの方々への思いを背負い、選手権に勝って恩返しをしたい」と力強く話す。

 小松監督は「関西代表として恥ずかしくないプレーをして、日本一を目指したい」と静かに闘志を燃やす。

 準決勝は1月2日、東京・秩父宮ラグビー場で行われる。相手は関東大学対抗戦グループの覇者・明治大学。一昨年度、7年ぶりに出場した決勝の舞台で惜敗した相手だ。

〝黒衣軍団〟は雪辱を誓い、チャレンジャーとして東京に乗り込む。

準決勝の明治大戦は2日、NHK総合で生中継の予定(キックオフは14時45分)。

悲願の日本一は手の届くところに-特別寄稿 ラグビージャーナリスト 村上晃一-

 関西大学Aリーグで5連覇を達成し、全国大学選手権では3年連続ベスト4進出を決めた。

 いまや大学ラグビー界トップクラスの実力を誇る天理大学ラグビー部だが、コロナ禍にあって、ここまでの道程は平坦ではなかった。

 2020年3月以降、多くのスポーツ大会が中止に追い込まれた。ラグビー界も例外ではなく、トップリーグは中断され、関西大学リーグ春季大会も開催が見送られた。

 自粛期間を経て、天理大ラグビー部は6月初旬に練習再開。8月まで順調に強化を進めたが、夏合宿直前の同12日、選手の新型コロナウイルス感染が確認される。その後もPCR検査で陽性判定が複数出てしまう。

 寮は閉鎖され、陽性者は病院や宿泊施設で隔離となり、陰性者も実家に帰るなどチームはバラバラになった。松岡大和キャプテン(4年)も、神戸市の実家へ戻った。活力あふれるプレーが売りの松岡は、オンラインミーティングなどで仲間を励ました。

「今季は練習だけで終わるのではないかとネガティブ(悲劇的)になる選手もいました。自分自身は、関西リーグも大学選手権も開催されると信じていたし、全員で一手一つに頑張っていこうと話しました」

 SNSなどでは誹謗中傷もあったが、OBやファン、他の部活の仲間らの励ましの声に救われた。

「ラグビースクールの子供たちの応援動画もあって、応援されていることを実感し、頑張る原動力になりました」(松岡)

 約1カ月間練習できなかったが、9月10日の練習再開後は急ピッチで強化を図った。関西大学Aリーグは短縮方式での開催が決まり、10月初旬から交流試合を3週にわたって行い、11月7日の開幕戦を迎えた。

 冷静な指導者である小松節夫監督も不安はあったという。

「本来なら夏合宿で練習試合をしながらチームをつくるのですが、それができなかった。関西リーグの開幕前に交流戦があったのはラッキーでした。それが夏合宿の代わりになり、ぎりぎり間に合ったという感じです」

 摂南大(64‐0)、近畿大(50‐0)、関西学院大(43‐17)に快勝したが、チーム力は思うように上がらなかった。

 1年生からレギュラーとしてチームを引っ張ってきたSH藤原忍、SO松永拓朗、CTBシオサイア・フィフィタの各4年生にも昨年までのキレはなく、チーム全体にミスも多かった。

 関西学院大戦は後半20分までは僅差勝負。しかし、小松監督は、「厳しい試合ができて良かった」と苦戦を歓迎した。追い込まれる経験をしないとチーム力は伸びないからだ。

 11月29日、同志社大学との優勝決定戦は、54‐21で勝利した。この試合では、負傷の江本洸志(3年)に代わって松永がFBに入り、SOにはジュニア選手権などで活躍してきた藤田大輝(3年)が及第点のプレーを披露した。

 また、長身のLOナイバルワガ・セタ(2年)をリザーブにして中鹿駿(4年)が先発し、仕事量豊富に動き回って最優秀選手の表彰を受けた。

 短い期間にさまざまな選手が自信をつけながら関西大学Aリーグの5連覇は達成された。松岡キャプテンは力強くコメントした。

「めちゃくちゃ嬉しいです。多くの皆さんの応援があって、ここまで来ることができました。恩返しは日本一になることだと思っています」

 12月19日、全国大学選手権準々決勝は、東大阪市花園ラグビー場で開催された。

 関西王者は関東大学リーグ戦1部2位の流通経済大学を迎え撃った。僅差勝負の予想もあったが、天理大はキックオフ直後から怒涛の攻撃を見せた。

 藤原、松永のHB団が右に左にパスを投げ分け、学生屈指の突破力を誇るフィフィタが力強い走りで何度もディフェンスラインを破る。WTBマナセ・ハビリ(1年)、PR小鍛治悠太(4年)、WTB土橋源之助(4年)らが次々とゴールラインを駆け抜けた。

 スクラム、ラインアウトも安定し、松岡キャプテンが「自分たちから体を当てていこうとした」と話した通り、ボール争奪戦で激しくコンタクトし、ボールを持った選手が思いきりよく前に出た。タックルされて押し戻されるシーンはほぼ無く、ボールを持たない選手も、おとりとなるランナーの仕事を献身的に行うなど、全員が有機的に動き続けた。これぞ天理ラグビーである。終わってみれば、78‐17という大勝だった。

 今季一番のパフォーマンスで正月越え。1月2日、秩父宮ラグビー場(東京都港区)での準決勝では明治大と対戦する。一昨年の決勝で惜敗した相手だ。

「関西の大学チームのみんなの思いを背負って、関東のチームを倒します」(松岡)

 もう一方の準決勝は早稲田大対帝京大。高校日本代表や、20歳以下の日本代表経験者など個人技に優れた選手が多い関東の大学に対し、トライを最小限に抑えるディフェンスが勝利の鍵になる。

 天理大の速いテンポの攻撃は、どのチームをも倒す力がある。過去2年、ベスト4以上の戦いを経験した選手が多いのは何よりの強みだ。支援してくれた人々への感謝、敗れ去った関西の各チームの思いを抱き、準決勝を突破して、決勝に臨みたい。

 悲願の日本一へ、天理ラグビーを貫き、仲間と自分を信じきれるかどうか。初の頂点は手の届くところにある。

【むらかみ・こういち】1965年、京都市生まれ。大阪体育大学時代のポジションはCTB/FB。卒業後、ベースボール・マガジン社へ。『ラグビーマガジン』編集部で同誌編集長を務める。退社後、フリーのラグビージャーナリストとして活動。著書に『ハルのゆく道』(道友社)や『ラグビーが教えてくれること』(あかね書房)など。

天理時報2021年1月1日号 掲載