「一手一つ」スローガンに頂点 第57回「全国大学ラグビーフットボール選手権大会」天理大学ラグビー部

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合言葉は「日本一で恩返し」
黒衣を纏った選手たちが、天理ラグビー1世紀の歴史に新たな金字塔を打ち立てた。
天理大学ラグビー部は11日、東京・国立競技場で行われた第57回「全国大学ラグビーフットボール選手権大会」の決勝に臨んだ。
昨年8月に部内で新型コロナウイルスの集団感染が発生。今季の活動再開も危ぶまれるなか、教友はもとより、天理市民やラグビーファンらの支援や応援を受け、約1カ月間の活動休止期間を経て復活した。
選手たちは「日本一で恩返し」を合言葉に、11月に関西Aリーグ5連覇を達成。〝関西王者〟として大学選手権に臨むと、初戦の相手・流通経済大学を圧倒。
準決勝では、一昨年の決勝で敗れた名門・明治大学に快勝し、2年ぶり3度目の決勝へ。
FW・BK一体となった攻撃と守備で、チームスローガンである「一手一つ」をプレーで体現。
前大会王者の早稲田大学を相手に8トライ55得点と完勝し、創部96年目にして、大学ラグビー界の頂点に初めて立った。なお、今回の優勝は関西勢として36大会ぶり2校目の快挙であり、決勝での55得点は大会史上最多を記録した。
2年前、大学選手権9連覇中の帝京大学を大会の準決勝で下し、7年ぶりにファイナル進出。
しかし、決勝相手の明治大学に1トライ差で敗れた。ピッチに座り込み、空を仰いで悔し涙を流す選手たち。小松節夫監督(57歳)は選手たちを労いながらも、歓喜する相手選手の姿を目に焼きつけるよう促した。
「優勝した明治大学は、前年の決勝を1点差で負けて悔しい思いをした。帝京大学も、9連覇の前は早稲田大学に負けて同じ思いを味わっている。両チームともそこから優勝への新たな挑戦が始まった」と小松監督は振り返る。
翌年度、天理大は創部初の関西Aリーグ4連覇を達成。リーグ戦全7試合の総得点は472点。2位の同志社大学を大きく引き離し、関西では頭一つ抜け出る存在へと成長した。ところが、その後の大学選手権では、準決勝で早稲田大に14‐52と大敗。2年続けて〝関東勢の高い壁〟に阻まれた。
昨年4月、新チームは松岡大和主将(4年)のもと総勢171人の大所帯でスタート。敗れた明治戦と早稲田戦の試合後の写真を、寮内で最も人目につく場所に貼り出し、「負けた悔しさを忘れないように」と、全員で雪辱の思いを共有した。
今季は、前回大会のスターティングメンバー15人のうち13人が残る。なかでも松永拓朗選手(同)、藤原忍選手(同)、シオサイア・フィフィタ選手(同)は1年時からレギュラーを張り、経験値が高い。
新型コロナウイルスの影響で全国へ「緊急事態宣言」が発出されている間は活動自粛を余儀なくされたが、6月11日に再開。練習強度を徐々に上げ、自粛期間中に失っていたプレーの感覚を取り戻しつつあった。
多くの応援受け活動再開
夏恒例の菅平合宿を目前に控えた8月12日、一部の部員が新型コロナウイルス陽性と判明した。すぐに練習を中断したが感染が広がり、最終的に62人が陽性と診断された。「これから菅平合宿で関東の強豪勢との力試しをしようというときに、まさか自分たちのチームが……」と、一時は落胆した松岡主将。
この一件がメディアで報じられると、非難や中傷の声が大学や天理市に複数寄せられた。部員たちは病院やホテル、自宅などに分かれて治療や待機。「このまま今季が終わってしまうのでは……」と、悲観的になる選手も少なくなかった。
心ない声があった半面、それを上回る多くの応援や温かいメッセージがSNSなどで大学や部員に寄せられた。なかには「コロナをタックルでやっつけて!」などと書かれた、市内の少年ラグビースクールからの寄せ書きもあった。
こうした応援の声を、部員のLINEグループで共有。松岡主将は「これだけ応援してもらっているのだから、活動再開を信じて前を向こう」と仲間に声をかけた。また自粛期間中、フィフィタ選手を中心にオンラインでトレーニングを続けた。
9月10日、部活動再開後は急ピッチで練習を強化。その傍ら、天理警察署による特殊詐欺防止ポスター作製への協力や、並河健・天理市長らと市内の側溝の泥上げ作業を行うなど、地域貢献活動にも積極的に加わる。また週に一度、早朝から市内のごみ拾いを続けた。
年が明け、2日の準決勝の相手は、関東大学対抗戦グループの覇者・明治大。15人のスタメン全員が「花園」出場経験のある名門チームだ。
キックオフ直後から敵陣深く攻め込む天理大は、開始3分に先制トライ。その後も前半だけで3トライを重ね、19‐5で折り返す。
後半も勢いに乗る天理大。ディフェンス面ではタックル直後のリアクションの早さで常に数的優位の状況をつくり、相手の攻撃を寸断する。一方、アタック面でも怒涛の連続攻撃で後半3トライを挙げ、41‐15で快勝。2年ぶり3度目の決勝進出を決めた。
「感謝だけでは足りない」
「つらい日々も、応援してくださった方々のおかげで頑張れた。感謝だけでは足りない。〝日本一〟という結果で恩返ししたい」と、松岡主将は何度もメディアの取材に答えた。
10日夜の都内ホテル。明日に決勝を控える選手が集まり、伝統の〝ジャージー渡し〟が行われた。一人ひとりの名前を呼び上げ、握手を交わす小松監督。最後に松岡主将へ黒衣を渡すと、指揮官はこう話した。
「このチームは本当に良いチーム。『このチームをもっと見ていたい』と思い続け、これ以上ない最後の舞台まで試合を重ねられることを嬉しく思う。君らには優勝する資格が十分ある。悔いが残らないよう、自分たちの力を出しきり、明日は絶対優勝しよう!」
迎えた国立競技場での大一番は、早稲田大のキックオフで始まった。
〝雪辱を果たす〟のではなく、支えてくださった人たちへの〝恩返し〟を胸に、懸命に戦う天理フィフティーン。前に出る低いタックルからボールを奪い、前半3分、鮮やかな先制トライを決める。その後もFW・BK一体となった多彩な攻撃でトライを量産。平成25年から部のスローガンに定めた「一手一つ」を、見事にプレーで体現した。
前後半4トライずつ、計8トライを挙げ、決勝史上最多得点となる55‐28で圧勝。創部96年目、3度目の日本一挑戦で悲願の初優勝に輝き、関西勢としては36大会(昭和60年、同志社大学の優勝)ぶりに大学ラグビー界の頂点に立った。
試合後のインタビューで小松監督は「学生たちは本当にハードワークして、自分たちの力を出しきってくれた。自分たちだけでは到底乗り越えられなかった壁も、さまざまな方々のサポートのおかげで乗り越えることができた。今日まで支援してくださったすべての方々へ、あらためてお礼を申したい」と語った。
松岡主将は「今日の優勝は、メンバー23人が体を張ったのはもちろん、部員全員の協力と、サポートしてくださった方々と、歴代の先輩たちが培ってくれた伝統のおかげだと思う。本当に、ありがとうございました!」と、涙を流しながら声を張り上げた。
当日夜9時すぎ、部員とスタッフ一同は親里に凱旋。天理駅で待つ教友や市民らが拍手で出迎えた。
漆黒のジャージーは我らの誉れ 教友・市民らの応援が力に-大学選手権トピックス集-
応援旗を選手のもとへ TRCと市民ら
天理ラグビークラブ(TRC)は、大学選手権決勝前日の10日、親里競技場でメッセージ付きの応援旗作りを行った。
これは、コロナ禍の影響で決勝の観客数が大幅に制限されたことを受け、「天理ラグビーファンの声援を選手たちに届けたい」との思いから企画されたもの。
同日、中山大亮様、並河健・天理市長をはじめ、管内学校のラグビー部員や指導者、ファンらが親里競技場に参集。ラグビー部のスローガンである「一手一つ」の文字が大きく書かれた漆黒の応援旗に、各自メッセージをしたためた(写真)。
応援旗はその後、同部スタッフによって東京・国立競技場へ届けられ、試合前のロッカールームで選手たちの目の前に広げられた。
中田一・TRC理事長は「天理ラグビーの集大成となる活躍を披露し、初優勝したことは大変誇らしく、うれしく思う。この功績は天理ラグビーの歴史に刻まれ、この先も語り継がれるだろう。今後も、ますますの活躍を願っている」と、お祝いコメントを贈った。
天理ラグビーを体現-立川理道さん-
決勝の試合内容は「素晴らしい」のひと言。攻撃・守備の両面で80分間ひたむきに戦い、天理ラグビーを体現してくれました。
最も感銘を受けたのは、小松節夫監督や松岡大和主将の言葉です。大学や天理市、OB、メンバーに入れなかった選手を思う言葉が多くて感動しました。
新型コロナウイルスの集団感染が発生した際に多くの応援の声が寄せられ、日本一という結果で恩返しをすることを目標に掲げて、それを実現したことを誇りに思います。
チーム力を高め、さらに新しい歴史をつくっていくことを期待しています。
初優勝は努力の賜物-島根一磨さん-
スローガンの「一手一つ」を体現し、小松監督を胴上げした姿に感動しました。
2年前は、決勝の緊張感と相手チームへの声援などにより、自分たちの力を出しきれませんでした。しかし、優勝した明治の選手が喜ぶ姿を全員が目に焼きつけ、そのとき感じた悔しさを忘れずにトレーニングに励んだ結果、今年は素晴らしいパフォーマンスを発揮できたと思います。
初優勝は、キャプテンを中心とした4年生の努力の賜物だと思います。ラグビー部の皆さん、本当におめでとうございます。
〝弟分〟に夢を託して
初優勝に大きく貢献したトンガ人留学生のシオサイア・フィフィタ選手(4年)とアシぺリ・モアラ選手(3年)の活躍を心から喜んだのは、同部のトンガ人留学生第1号で、昨年から母校・日本航空高校石川ラグビー部監督を務めるシアオシ・ナイさん(31歳)だ。
平成17年に来日したナイさんは、同校2年時の親里での合同練習の際に、小松監督に声をかけられ、天理大へ進学した。
ところが、大学では両足に大けがを負い、満足にプレーできなかった。それでもナイさんは「けがをした私を励ましてくれた天理の仲間の姿を通じて、感謝の心やたすけ合い、心を倒さずに努力することの大切さを学んだ」と振り返る。
卒業後、母校のラグビー部コーチに就任したナイさん)は、来日したばかりのフィフィタ選手を指導。生活面もサポートし、進路に悩む選手たちには自身の経験を伝え、天理大への進学を後押ししている。
ナイさんは「自分が成し遂げられなかった日本一の夢を、〝弟分〟であるサイアやアシぺリが達成してくれたことを誇りに思う。自分も教え子たちに負けないよう、指導に力を入れていきたい」と語った。
憧れの先輩へ恩返し
決勝で4トライを挙げた市川敬太選手(4年)。天理大へ進学した背景には、ある先輩の存在があった。
東大阪市立日新高校では1年時から試合に出場するも、全国大会予選で強豪校に完敗し、花園の夢舞台には一度も立てなかった。
そんななか、日新高で教育実習を行っていた同部OBの白井竜馬さん(28歳・クボタスピアーズ所属)から天理大への進学を勧められた。
「日新高校の卒業生で唯一のトップリーガーになった先輩に憧れた」
天理大へ進学後、練習に明け暮れ、3年時から試合に出場するようになると、今季は主力として活躍。初優勝に大きく貢献した。
市川選手は「あのとき進学を勧められていなかったら、日本一を経験できなかった。白井先輩には感謝の気持ちでいっぱい」と。
一方の白井さんは「同じ高校出身の市川選手が天理へ進み、初の日本一をつかみ取ってくれて素直にうれしい」と話した。
学生コーチ陣も尽力
初優勝の裏には、試合に出場していない学生コーチ陣の支えがあった 。
部員の一人、紺谷憲治さん(4年)は一昨年10月、練習中に「脳震盪」を起こして競技から離れざるを得なくなった。一時は心を倒しかけたが、小松監督や仲間の助言もあって、学生コーチとしてチームを陰から支えようと心に決めた。
その後、紺谷さんは主に守備面を担当。同じく学生コーチの神田善行さん(同)は相手の攻撃パターンを分析。寺尾雄博さん(同)、福岡拓歩さん(同)の二人は〝ラインアウト専門部隊〟を結成し、強豪校のサインや癖を研究したほか、レギュラーメンバーの弱点を洗い出して修正点を伝えた。
迎えた決勝当日。天理大は早稲田大学を攻守で圧倒し、マイボールラインアウトは12本中11本獲得。4人は仲間が好プレーを見せるたびに喜びを嚙み締めた。
紺谷さんは「キャプテンの『全員で優勝しよう』という強い気持ちがレギュラーメンバーだけでなく、チーム全体で『一手一つ』になろうとする意識の向上につながった。優勝できて本当にうれしい」と笑顔で話した。
ステーキ肉で応援
ニュージーランド輸入商社の「グローサリーMANUKA」(大阪市)は、準決勝と決勝の前の2度、ニュージーランド産のグラスフェッドビーフステーキを同部に贈呈した。
同社は関西のラグビー熱を盛り上げようと、併設するレストランで定期的にイベントを開催。2年前には小松監督を迎えたトークイベントも実施した。
昨年、コロナ禍の影響で店舗営業の自粛を余儀なくされるなか、多くのラグビー関係者から支援が寄せられた。同社では「ラグビー界への恩返しを」との思いから、関西を代表して大学選手権に臨む天理大に、部員全員分のステーキ肉、計75㌔を寄贈した。
同社の担当者は「選手たちの活力になればと思い、牛肉を贈った。初優勝してくれたことを大変うれしく思う。何らかの形でお祝いできれば」と話している。
夜の天理駅で出迎え
決勝戦当日の11日午後9時。天理駅前には、同部の選手、スタッフの帰りを待つ大学や市の関係者、市民らが駆けつけた(写真)。
小松監督を先頭に選手たちが改札を出ると、拍手が次々と湧き起こり、「優勝おめでとう!」などの声が上がった。
永尾教昭・天理大学長、並河市長らから花束が贈られた後、チームを代表して小松監督があいさつ。「皆様の支えがあって、ようやく日本一を勝ち取れた。連覇、3連覇を目指したい」と語った。
続いて松岡主将が「この一年間、コロナの影響でさまざまなことがあったが、皆さんの応援を原動力に、日本一になって恩返しをすることができた。この経験を生かして後輩たちも頑張っていくので、引き続き熱い応援をお願いします」と話した。
なお、天理駅での小松監督、松岡主将のあいさつの動画を、左記QRコードから見ることができる。
ネットで情報発信
道友社は、インターネットやSNSで、いち早く試合結果を発信した。
道友社フェイスブックでは、試合終了直後の午後3時53分、第1報として試合結果を投稿。1千件以上のリアクションがあり、シェアは84件を数えたほか、「初優勝おめでとうございます!」「感動をありがとう」「優勝インタビューでは私も泣いちゃいました」といった喜びのコメントが寄せられた。
また、道友社インスタグラムでは、カレーファイブの5人が黒のラグビージャージーを着用し、初優勝を祝うイラストを投稿。「いいね!」の件数は853件に上った。
なお決勝戦終了後、同ページには早稲田大を相手に奮闘する天理フィフティーンや、優勝トロフィーとともにチャンピオンボードの前に集まる選手たちの写真などを追加でアップしている(下段広告参照)。

SNSにも反響多数
試合中から終了後にかけて、ツイッターではラグビーファンによる、さまざまな反応があった。終了直後には、「天理」のワードを含むツイートが15分間に2千件以上投稿されたほか、「天理大学」のワードが、一時トレンド入りした。
多くのラグビーファンは「初優勝おめでとう!」「圧倒的な強さでした」「本当に素晴らしい」など、同部の優勝を祝福するツイートを投稿。さらに、「熱いインタビューにも感動しました!」「最後のキャプテンの言葉を聞いて、グッと来た」「応援している人への感謝を伝えていたし、本当にいいチームですね」と、松岡主将のインタビューに関するツイートが数多く見られた。
このほか早稲田ファンと思われるユーザーも「母校の早稲田を応援していましたが、今回は完敗でした」「今日は天理の強さが光りました」など、天理大の初優勝を称えた。
優勝記念タオル発売
道友社は、「天理大学ラグビー部優勝記念マフラータオル」を24日から各販売所で発売する。
このタオルは、同部の大学選手権初優勝を記念して臨時に製作したもの。
チームのジャージーカラーである黒を基調に、チームスローガンである「一手一つ」などの文字がデザインされている。定価は1千円(税込)。お求めは、道友社本社、おやさと書店まで。
天理時報2021年1月24日号 掲載
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