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頭の中の音-幸せへの四重奏vol.33-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者


「最近、聴いている曲は何ですか?」と、よく聞かれる。曖昧に答えることもあるが、本当の答えは「何も聴かないようにしている」だ。なぜなら、頭の中で常に音楽が鳴っているからだ。子供のころ、私はポカーンとして何も考えていないように思われた。そのたびに母は「舞は集中して考えてるの」と、かばってくれた。

学生のころは、いろいろな曲を聴き、心が洗われるような感覚を味わった。でもいまは、頭の中で鳴る音楽との会話に集中し、その間はどんな音も耳に入らない。夫の呼びかけに気づかず、苦笑されることもあるが、そんな私を理解してくれることに感謝している。

子供が幼いころは泣き声が全く苦にならなかった。泣き声から違う旋律が頭に思い浮かび、歌っているようにさえ聞こえた。

音楽院では音楽解釈も教える。最初は曲や作曲家の詳細を調べていたが、近年は全く下調べをしないことにしている。そうすると、目の前にいる生徒がつくる音と、作曲家が書いた譜面が手にとるように感じられ、生徒と同じ譜面を見て、どうしてその解釈になったのかを話し合うことができる。そして、彼らがいま何を必要としているのかが感じ取れる。

よく生徒に言う言葉がある。「頭に描く音を聴きなさい」。自分の理想の音、弾きたい音に向かっていく。そして実際に鳴る音とどこが違うのかを考えて、違いがなくなるまで練習する。自分が理想とする音と自分が出す音が重なったとき、体が空を飛ぶような感覚になる。そのときには、弓はこうだとか、指がどうだったなんて考えてはいない。身体の隅々までその音と一体となる。そして楽器も体の一部となる。その感覚を、また味わいたくて練習に励む。

小学生のとき、ヴィオラ奏者の今井信子先生が天理に来られた。私は公開レッスンのために初めてヴィオラを弾いた。レッスンの後、今井先生が「いつかあなたは素敵なヴィオラ奏者になるわね」と言われた。その夜、先生の演奏会で生まれて初めて本物のヴィオラの音を聴いた。その記憶にある音に近づくため、今日も私は弓を持つ。

天理時報2021年4月25日号掲載