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感謝祭の思い出-幸せへの四重奏vol.37-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者

 


 

留学生活が始まった10月、ミシガンでは雪が降っていた。あの秋から渡米30年目を迎えた。
あのころは全く知らないことばかりだったけれど、いまでは、驚くような文化の違いもあまり感じない。長くアメリカに住んでいても、いまだに国籍は日本のままだ。アメリカ国籍のほうが生活面では何かと便利らしいが、アメリカ国籍を取ると日本国籍がなくなってしまうので、自分の故郷を失ってしまうような気がして、いまだに踏み切れていない。
一番アメリカらしいホリデーは11月の末にある感謝祭だ。大きなターキー(七面鳥)を焼いて、家族や友達が集まる。感謝祭の伝統は、ここニューイングランドで始まった。野生のターキーを近所で見かけるたびに、この鳥を焼いて土着の人々に感謝の印として贈った起源に思いを馳せる。
これまでの感謝祭の思い出を家族と話していると、ヒューストンで知り合った老夫妻のことを思い出した。大学院時代、大学オーケストラのチケット売り場で行列に並んでいたご夫妻に、たまたま私が持っていたチケットを差し上げた。喜んだご夫妻は、コンサート後に私を感謝祭のディナーに招待してくださった。「お友達、何人でも連れてきていいよ」
私は、いろんな国から来ている留学生の友達数人を誘って行った。ご夫妻は、大きなターキーを焼いて伝統的な感謝祭のご馳走を振る舞ってくださった。「私たちも子供らが結婚して、みんなで集まることが少なくなった。こうして若い人たちと食事ができて若返るよ」と大変嬉しそうだった。大学院を出て私がボストンに引っ越した後も、ずっとあいさつのカードを送り合って交流させてもらった。
アメリカに家族がいない留学生同士が集まって、自国の料理を持ち寄って楽しんだ感謝祭もあった。故郷を遠く離れた寂しさを吹き飛ばすくらい楽しかった。29年分の思い出とともに、その間お世話になった方々や出会った友達への感謝を込めて、30回目の感謝祭は、家族と共に過ごせない生徒たちをすべて招待するつもりだ。

 

天理時報2021年11月17日号掲載