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もう一度笑顔に-幸せへの四重奏vol.38-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者

 

 

 

先週、ひょんなことから救急病棟に入院することになった。救急病棟なので、大けがをした人や急病者が一晩中、救急車で搬送されてくる。痛みで泣き叫ぶ声や嘔吐する音などを聞きながら一夜を過ごした。私は急性の虫垂炎で手術を受けなければならないらしいが、それもいますぐではなく、ほかの患者に比べると大したことではないという。医師も看護師も私の部屋に来るときは、笑顔でホッとしているように見えた。
こうして一人で仕事もなく、じっとしていることが全くない私は、スローモーションで先月からの出来事に思いを巡らせていた。すると、大事なことを思い出した。まだ私にできることがあるのではと思ったのだ。
長年、主人にピアノを習っている13歳のC君のご両親は、いつもとても親切で気が利き、こちらが頼まなくても、先に手伝いを買って出てくださるような方だ。
ところが2年前、C君のお母さんに末期のがんがあることが分かった。苦しいだろうにC君のことを一番に考え、ピアノのレッスンは続けてほしいと頼まれた。大好きなピアノを弾くことで、C君に幸せな時を与えたいと言っていた。
この秋、がんは体中に転移し、これ以上治療しても助からないと知ったご夫婦は、C君を連れてヨーロッパ旅行に出掛けられた。まだ体が動くうちに、家族との思い出づくりに、いままで行きたかった場所を片っ端から回ってくると笑顔で話しておられた。
お母さんにとってC君の喜ぶ顔が一番の特効薬だと思った私は、退院した日、C君の大好物であるいなりずしを作って届けた。C君はおいしいと言って全部平らげた。そのときのお母さんのうれしそうな顔を見て、もう一度この笑顔になってもらいたいと考えた私は、あるプランを思いついた。今週ある今年最後のボロメーオ弦楽四重奏団のコンサートに、C君の家族を招待したのだ。最前列でワクワクして座っているC君の顔が目に浮かぶ。このコンサートの間だけでも、悲しい現実を忘れる時間を過ごしてもらえるよう、心から演奏させていただこうと誓った。

 

 

天理時報2021年12月15日号掲載