ミシガン湖の石–幸せへの四重奏vol.24-
元渕 舞
夏の終わりに、アメリカの高校留学時代のホストファミリーだったウォーカーさんのママに会うため、家族全員でミシガン湖北部の街・イーストポートに行った。
数年前まで、ママは私が通ったハイスクールの近くに住んでいたが、パパが亡くなったとき、この街に家を建てた。
以前と比べてこぢんまりとしているが、ママらしいセンスの良さがあちこちに見え、幸せに生活しているのが分かっうれて嬉しかった。
ミシガンを愛し、生涯をミシガンで過ごしたパパは「自ま分の遺灰はミシガン湖に撒いてくれ」というのが遺言だった。
この夏、ミシガン湖が見渡せる丘の上にある墓地に、パパのお墓が建った。
お参りに行く前に、ママは私たちをミシガン湖に連れていった。
パパにお供えする石を選ぶためだ。
五大湖の一つであるミシガン湖は、南北494_、東西190_に広がり、大きな波もあって見た目はまるで海だ。
でも淡水なので海の匂いがしない。
浜辺には打ち寄せられた石がたくさんあって、なかにはペトスキーという氷河期の化石も含まれている。
そこで、それぞれ一番きれいだと思う石を選んだ。
見ると、私の家族が手にしていたのは、全く違った色や形の石だった。
7歳の次女は、角張った濃い色の石を選んだ。
みんなの個性が出ているようで面白く、どの石も何かを語っているように見えた。
この夏もいろいろなことがあった。
2年前に右腕の神経をやられ、10カ月間の休業を経て昨年の夏、ようやく仕事に復帰した。
それから順調に完治へと向かっていた腕が、今年7月の終わりごろ、また思うように動かなくなった。
演奏中に右手の感覚が全くなくなることもあり、「夏のコンサートがたくさん控えているのに、このままでは舞台に上がれない」と、焦りと不安で夜も眠れなかった。
綱渡りのような毎日が続いた。
ある日、「神様は絶対に悪いようにはなさらない」との父の言葉を思い出し、これにすがった。
こうして何とか演奏会をこなすことができた。
石を選びながら、「この石にもゴツゴツしていたころがあったろうけれど、長い道中で大波に洗い流されているうちに、こんなにスベスベになったのだ」と思った。
そのとき、つらい経験も私を磨くための_神様からの贈り物_だと、やっと思えた。
私は薄い灰色のスベスベとした石を見つけ、パパのお墓にお供えした。
そして、私たちのこれからの道中を見守ってほしいと、パパに祈った。
天理時報2019年9月22日号掲載