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時間の芸術-幸せへの四重奏vol.1-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者

米国最古の音楽大学であるニューイングランド音楽院は今年で創立150年を迎える。現在、世界39カ国から集まった750人の大学生・大学院生が学んでいる。ここに入ってくる学生のレベルは高く、高校時代にすでに国際コンクールで1位になった子も数人いる。
ここで17年間、私は教壇に立ってきたが、親神様はよく見ておられるなあと思うことがある。それは、他人を蹴落としてでも上にあがろうとする子は全く伸びないということだ。
実際、私の学生時代でも、先生に陰口を言っていた子や、人の演奏を小バカにしたように笑っていた子は、いくら才能があっても誰一人、音楽家として成就していない。仲間をたたえ、支え合うことのできない子は、人と音を合わせることなんて絶対にできないのだ。
私はここ数年、演奏解釈の授業を持っているが、ライバル意識の強い学生たちは、クラスメートの演奏を常に批判の耳で聴いているのがよく分かる。一人に演奏させて他の生徒たちの感想を聞くと、ヴィブラート(音を細かく震わせる奏法)がどうの音色がどうのと、辛口批評ばかりだ。
これまで私は、才能のある生徒たちが希望を失い自分を見失っていくケースをいくつも見てきた。音楽院に入ったのはいいが、そのレベルの高さに気おくれして、自分の居場所を見失ってしまうのだ。
せっかく素晴らしい演奏をしたのに、敗者のような顔をしている奏者と、それを聴いていた生徒たちに、私は時間を共有する大切さについて語った。音楽は〝時間の芸術〟だ。時間を音で彩る者として、今の自分を見つめ、向き合うことで、今しかできない演奏ができる。そこに居合わせた聴衆は、その時しか存在しない音の証人だ。だから、演奏する者も聴く者も、今という時を共有したことを大切にしようと語りかけた。そして、もう一度、奏者をステージに立たせ、全員に言った。「彼女の演奏で良かったことを三つずつ挙げてごらん。同じコメントはダメよ」。すると、いいコメントが続々と集まった。奏者は照れながらも顔がイキイキしてきた。そして、コメントしている生徒たちも、とても優しい顔になった。私は続けた。
「今あなたたちは、彼女が自由に演奏できるように、彼女の翼を広げてあげたのよ。これからも、お互いのいいところを見つけてあげましょう」
将来、彼らはきっといい演奏家になり、生徒を持つ立場にもなるだろう。そのとき彼らも、生徒の翼を広げてあげられるよう願うばかりだ。

 

天理時報2017年4月2日号掲載