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宗教から見た世界 トランプ「エルサレム首都」宣言の背景

島田 勝巳 天理大学宗教学科教授

トランプ米大統領は12月6日、イスラエルの首都をエルサレムと認定すると宣言し、テルアビブにある米国大使館をエルサレムへ移す大統領令に署名した。この「エルサレム首都宣言」が、大きな波紋を広げている。
エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地である。その旧市街には、古代イスラエル王国の神殿の一部とされる「嘆きの壁」、キリストの墓があったとされる場所に建てられた「聖墳墓教会」、またイスラムの預言者ムハンマドが昇天したとされる「岩のドーム」がある。
特に、ユダヤ教徒とイスラム教徒にとっては、「パレスチナ問題」の縮図がこの街にあるといっても過言ではない。そのため米国を含めた国際社会は、これまでエルサレムを国際管理都市とし、その帰属については、イスラエルとパレスチナの和平交渉に委ねていた。今回のトランプ氏の宣言は、その立場を覆すものだった。
今回の突然の宣言の理由として指摘されているのは、昨年の大統領選での公約の一つでもあったこの決断を下すことが、トランプ氏自身の支持基盤に対するアピールになるというものである。
だが、ユダヤ人ばかりでなく、キリスト教保守派も多く抱えるトランプ氏の支持層が、イスラエルの立場を強く支持するのは何故なのか。それは単に、エルサレムに「聖墳墓教会」があるからではない。その背景には、トランプ氏の支持層の多くが奉じている「キリスト教シオニズム」と呼ばれる思想がある。
それによれば、キリストの再臨と終末の到来という事態の前に、まずはイスラエル国家の樹立が成し遂げられなければならない。そしてイスラエル王国にユダヤ人を帰還させた後、キリスト教徒もエルサレムに帰還するとされる。こうした”原理主義的”思想を奉じる「キリスト教シオニスト」の存在は、今日の米国のイスラエル支持の外交政策に、極めて大きな影響力を持っているのだ。
米国内のみならず、国際的にも「分断」をもたらすトランプ氏の手法によって、今後さらに世界各地にテロ活動が頻発する可能性は増すばかりである。原理主義に対し、別の原理主義が抵抗する……という悪循環が予想されるからだ。
エルサレムという聖なる土地をめぐって、これまで流されてきた多くの血は、なおも過ちを繰り返そうとするわれわれ人間の愚かさを、いま、あらためて照らしだしている。

天理時報2017年12月17日号掲載