大人の放課後
桜旅――〝究極の桜〟を求めて
中西一登

写真提供=中西一登氏
桜は春に咲き、卒業式や入学式の時期に、まさしく花を添えてくれるもの。そんな、日本人なら当たり前の感覚を覆す桜鑑賞の仕方を、もう何年も続けている人がいる。桜前線を追いかけ、1年中、桜を楽しむ中西一登さん。その極意とは……。
「桜は毎週、日本のどこかで咲いている」とと言ったら、みなさんは信じるでしょうか。私はいま、それを実証する旅の真っただ中にいます。
この雑誌、『すきっと』が発行されるころには、一年余りの〝毎週連続花見〟を達成している予定です。二〇一六年十一月九日に毎週花見の旅をスタートし、週二日の休みを使って東京を起点に全国各地へ出かけています。
思いつきで、桜前線追跡の旅
私が「桜前線追跡の旅=桜旅」を始めたのは三十歳の時でした。三十になったら会社を辞めて日本一周をしたいと、漠然と考えていたのです。でも、何か目的がほしいと思っていたところ、たまたま頭に浮かんだのが桜旅でした。それまでは桜に対する思い入れは特になく、花見のアイテムくらいにしか認識していませんでした。
でも、旅を続けるうちに、桜の魅力の虜になってしまいました。花の美しさと豪華さ、そしてわずか一週間ほどで散ってしまうはかなさに心動かされました。
また、同じソメイヨシノでも、九州では南国の植物に混じって咲いたり、北海道では厳しい自然の中で耐えていたりと、全国各地の風土の中で異なったすてきな表情を見せてくれます。
特に、弘前城址(青森県弘前市)に初めて行った時には、公園内に咲き誇る桜の見事さに圧倒されました。
これまでに、会社を五回辞めて、九州から北海道まで桜前線を追いかける旅をしてきました。沖縄を含めると、一月から七月まで半年以上にわたる長旅です。さすがに会社を辞めないと、こんな旅はできません(笑)。
資金の節約のため、長旅では軽ワゴン車に布団を積み、主に車の中で寝泊まりします。二〇〇六年の場合、三月以降は百二十三泊の長旅となり、うち車中泊は百十一泊でした。長旅と毎週末の旅を合わせて、これまでに全国約一千四百カ所で桜を見てきました。ネパールとアメリカ合衆国(ニューヨーク、ワシントンDC)にも、桜を見に行きました。
〝毎週花見〟のからくり
さて、毎週花見が可能な理由について、ご説明しましょう。
一つは、日本列島の南北方向の長さと、それによる桜の開花時期のずれです。
沖縄の桜名所、八重岳の平年の桜(カンヒザクラ)開花日は一月上旬といわれます。咲き具合が良い年には、満開の桜の下で成人式の写真を撮るそうです。
一方、北海道では、遅い場合には八月上旬に、知床の山上でチシマザクラが咲くことがあるのです。私は七月下旬に、知床でチシマザクラの花を何度も見ています。
つまり、桜前線は半年以上かけて日本列島を北上するのです。ですから、車などで追跡すれば、この期間は花見をずっと続けられることになります。みなさんも、会社の休みを利用してご近所や全国各地を訪ねれば、数カ月は毎週花見ができますよ。
ここまでは、ご存じの方もおられるかもしれません。次に、それ以降の桜の開花についてご紹介しましょう。
桜のピークはもちろん春です。日本には、一説には三百五十種類ともいわれる桜があり、そのほとんどは春咲きです。しかし、中には秋咲きの種類があるのです。十月桜、冬桜、子福桜、四季桜(二季咲桜)、不断桜など、いずれも秋と春の二回咲きます。場所や種類(系統)によっては、冬の間も少しずつ開花を続ける場合があります。
これらの桜は、九月下旬から全国各地で散発的に開花します。気候の違いなどによって各地の開花時期が異なるので、桜前線はありません。ネットで開花情報を、目を皿のようにして探します。
今年の新発見は、新宿御苑の十月桜が五月十八日に咲いているのを見つけたことです。春の残り花ではありません。おそらく手入れがいいため、十月桜が四、五カ月もフライングして咲いたものと思います。御苑の職員の方も、こんなに早い開花は知らなかったと言います。おかげで北海道の平地の桜が一段落した六月上旬以降、私はほぼ毎週御苑に通って十月桜の花を楽しみ、毎週の連続記録を更新しました。
最も危うかったのは七月二十五日で、たった一輪。蚊に刺されながら三十分ほど探して見つけたときには、心からホッとしました。
真冬に咲く桜
『すきっと』が発行される時期(十二月以降)が見頃の桜をご紹介しましょう。ネパール、インド、ベトナムなどから持ち込まれたヒマラヤザクラです。この桜はソメイヨシノと違ってクローンではなく、種から育つため、個体ごとの違いが大きいのが特徴です。
ソメイヨシノにも似た一重五弁の大きめの花が咲く木が多く、東京では例年十一月下旬から十二月中旬が見頃です。東京駅丸の内北口近くの日本生命本社前という一等地に植えられており、正面の歩道を利用する多くの人が目にしたことがあると思います。ほかには戸越公園、弁天通り公園(東京都品川区)、静岡県熱海市の各所などに植えられています。
私はいつも、自分が理想とする〝究極の桜〟を探しています。その桜を見たら、もう旅をおしまいにしてもいいと思うくらい素晴らしい桜をです。これまで全国約一千四百カ所に行きましたが、まだ出合えていません。もしかしたら、一生出合えないのかも知れません。
でも、きっとどこかにある! そう信じて、これからも桜旅を続けていきたいと思います。
中西一登のおすすめ桜スポット

弘前城址
青森県弘前市
一番のお勧めです。見頃は例年ゴールデンウイークのころ。
青森名産のリンゴの栽培技術を応用した桜の管理技術は日本一とも。日本最古といわれる樹齢130年を超えるソメイヨシノが元気に花をつけます。約2600本の桜と、天守閣、石垣、朱塗りの橋、お濠など城の風情がとてもマッチしています。盛大な桜まつりが行われ、屋台の津軽ラーメンや特産の甘いトウモロコシなどを食べ歩くのも楽しみの一つです。

吉野山
奈良県吉野町
見頃は例年4月上旬から下旬。約3万本のヤマザクラなどが植えられています。標高差があり、下千本、中千本、上千本、奥千本と次々に開花し、見頃が長いのが特長です。開けた場所では、一目千本と言われる桜景色を楽しめます。

新宿御苑
東京都新宿区
東京では、やはりここ! 約65種類、約1300本の桜があでやかさを競います。手入れがよく、ほかの場所より豪華な花が見られるのが特長です。大都会の真ん中でこれだけ桜を楽しめるのは幸せなことです。ソメイヨシノのピークは4月上旬ですが、例年1月下旬から4月下旬まで、なんらかの桜が咲いています。

六義園
東京都文京区
東京の一本桜では六義園が最高です。シダレザクラのライトアップが幻想的。ソメイヨシノよりも数日早いので、ネットなどの開花情報にお気をつけください。例年3月下旬です。
すきっとvol.30 特集 Be Ambitious 掲載
【なかにし・かずと】
1964年、愛媛県生まれ。桜ウオッチャー。桜のために気象予報士資格も取得。30歳以降、5回会社を辞めて九州から北海道まで桜前線を追跡。日本のどこかで毎月桜が咲くことを知り、2001年以来181カ月(15年以上)にわたって毎月花見をしている。16年11月からは毎週花見連続46週、継続中(17年9月末現在)。これまで見た桜は、日本全国約1400カ所、アメリカ合衆国11カ所、ネパール29カ所。桜関連のネット検索は毎日欠かさない。現在は不動産会社社員。
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