誰もが持つ〝解決のための力〟
金山 元春
困り事を抱えた人の相談に乗るときの目標の一つとして、「その人が自分の力で解決できるようになる」ということが挙げられるのではないでしょうか。
もともと人は、自らの課題を自ら解決する力を持っていますが、困難な状況の中にいると、そのようには思えないものです。ですから〝人だすけ〟の目標は、その人に〝自分には力がある〟と思えるようになってもらうこと、ともいえるでしょう。
こんな事例を想像してみてください。学生会の合宿中の出来事です。一人の高校生が泣きながら世話係を訪ねてきました。友達ができずに宿舎にいるのがつらいとのこと。それ以上話はできず、泣き続けるだけです。
このとき、この子は友達づくりに失敗したのだ――と捉えて失敗の原因を探せば「ここも悪い、あれもできない」と、いくらでも見つかるでしょう。この子は、それだけ〝力がない子〟なのでしょうか。
いいえ、そうではありません。人間関係は相互作用です。相互作用とは、お互いがお互いに影響を及ぼし合うことです。こちらが「この子には力がない」という前提で関われば、その子は自分がいかに力のない弱い存在であるのかを、こちらに示すようになります。その姿を見て、こちらも、やっぱりこの子は弱い子だと確信する――という悪循環が生じるのです。
一方、「この子には力がある」という前提に立てば,どうでしょうか。次のような言葉を届けることができるかもしれません。
「よく話してくれたね。世話係として私が気づけばよかったのに、こうしてあなたから教えに来てくれるなんて、ありがとう。それから正直、驚いているんだ。だって大人の私でも、つらいことを素直につらいって誰かに伝えることは簡単にできないから」
この子には力があふれています。つらい状況をつらいと感じることができる力、たすけを求めようと判断できる力、そして実際に動くことができる力、自分のつらさを泣くという分かりやすい形で周囲に知らせることができる力、それを言葉にして伝えることもできる力――。
これらすべてを言葉にするわけではありませんが、こうした視点でこの子を見ることで、さらに次のような言葉をかけることができるかもしれません。
「よかったら教えてほしいんだけれど、あなたはそんな素敵な力を一体どうやって身に付けたの?」
こうした質問に答えるうちに、その子は〝自分には力がある〟ことを思い出します。いつの間にか涙は止まり、笑顔も見せてくれるでしょう。そうなれば、それだけ力があるあなただから――という前提で、合宿での過ごし方を一緒に考えることもできます。
人は誰でも〝解決のための力〟を持っています。状況が困難であればあるほど、その当事者も、それに関わる〝おたすけ人〟も、つい忘れてしまいがちです。でも、このことはぜひ覚えておいてほしいのです。
天理時報2017年7月2日号掲載