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Special Interview

ディズニーランドの人づくりの秘密 原動力は「ありがとう」

大住 力「ソコリキ教育研究所」所長/「難病の子どもとその家族へ夢を」代表

大住 力

 顧客満足度が非常に高いことで有名な東京ディズニーランド。従業員の9割はアルバイトだが、その多くがイキイキと働いていることもよく知られている。「すべてはゲストのハピネスのために」とのミッション(理念)を核とする同社の人材育成に、20年近く携わった大住力さんに話を聞いた。

――ディズニーランドの人気の秘密は、どこにあると思いますか。

 ディズニーランドに勤めていると、ゲスト(来場者)から「ありがとう」と言われる機会が非常に多いんです。普通は逆ですよね。ひと言で言えば、ここにディズニーランドの秘密があるんです。
 園内ではアトラクションやショッピングをゲストに楽しんでいただきます。
 ところが、ディズニーランドが本当に提供しようとしているものは「人と人とのコミュニケーション」なんです。
 たとえば、ディズニーランドの園内では、あえて案内標識を少なくし、トイレの位置も分かりにくくしています。そうすることで、ゲストは近くを通る清掃スタッフに自然と声をかけますよね。実は、清掃スタッフの役割は、掃除よりも「案内」のほうが大きいんですよ。
 こうして生まれるコミュニケーションを、創設者のウォルト・ディズニーは「マジカルチャンス」と呼びました。それこそが、ゲストに最高の体験を提供する絶好の機会だと考えたのです。ディズニーランドには創設者の理念が随所に散りばめられているのです。

自分にしかできないことを

――そうした理念や心構えは、どのようにしてスタッフに徹底されるのでしょう。

 意外に思われるかもしれませんが、ディズニーランドでは仕事をマニュアル通りにこなしていれば、60点の及第点は取れていると認めます。これを「デューティー」(やらなくてはならない仕事)として、料理のレシピのように、まずは「誰がやっても同じ結果」を目指します。そうすることで、残りの40点である「本来の仕事」が見えてくるんです。
「すべてはゲストのハピネスのために」というミッションのもと、スタッフが自発的な好奇心や向上心から、自分にしかできないことをする。この本来の仕事を全うして初めて、100点と評価されるんです。
 また、ディズニーランドでは一人の新人に対し、教育担当の先輩スタッフが必ず付きます。彼らは単にマニュアルを教え込むのではなく、「なぜ、マニュアルの行動がミッションの実現につながるのか」を繰り返し説明します。
 ディズニーランドは〝感動のサービス〟といわれることもありますが、背景にある仕組み自体は、難しいものではありません。どれだけミッションを共有できるかがカギだと思います。

ゲストの笑顔のために働く

――大住さんご自身は、つらい時期やモチベーションが低い時期はなかったのですか。

 入社当時、私のモチベーションは決して高いとは言えなかったのですが、そんな自分や同僚たちを奮い立たせようと、社内で独自に「ウォルト・ディズニー研究会」を立ち上げました。さまざまな部門からモチベーションを高めたいと考えているスタッフを集めて、自分たちの担当する仕事を発表する場をつくったんです。アメリカの本社からも資料を取り寄せながら研修を重ねるうち、気がつくと参加者は300人を超えていました。
 また、ある会議のとき、あまりに腹が立ち、部屋を飛び出したことがありました。それでも30分かけて園内を一周する間に「ゲストの笑顔のための会議だったな」と気づき、心が静まりました。迷ったときは「誰のために働くのか」という原点に立ち返るよう、いまも心がけていますね。

自己有用感の積み重ねから

――さまざまなシステムの中で最も大切なものが、冒頭の「ありがとう」と言ってもらえる仕組みなのでしょうか。

 私はそう考えています。
 そもそも、ウォルト・ディズニーが目指したのは「人に聞いて、人が応えて、人が動く」という〝当たり前の世界〟です。人とのつながりを実感することで得られる安心感こそが、人を幸せにすると考えたのです。
 これもマニュアルで徹底されていることですが、スタッフはゲストに対して「写真をお撮りしましょうか?」といった声をどんどんかける。すると、ゲストから「ありがとう」と自然に言ってもらえる。こうした中で感じる小さな自己有用感の積み重ねが、大きな原動力になっていく。ディズニーランドには、その原動力づくりの仕組みがあるのです。
 人間は誰かの役に立っていると実感したとき、イキイキしますよね。社員同士が「ありがとう」と自然に言い合えるようになれば、その職場はきっとうまく回っていきますよ。

天理時報2016年9月11日号掲載

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【おおすみ・りき】1965年生まれ。大学卒業後、(株)オリエンタルランドで「東京ディズニーシー」「イクスピアリ」の立ち上げや人材育成に携わる。退社後、「ソコリキ教育研究所」を設立し、これまで100社以上で研修を実施。公益社団法人「難病の子どもとその家族へ夢を」の代表理事も務める。著書に『ディズニーの現場力』(かんき出版)、『もしもディズニーが店長だったら』(日経BP社)など多数。



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