〝腑に落ちる感覚〟を大切に
金山 元春
人間関係では相手に共感することが大切 などと語られることがあります。この「共感する」という表現に私は違和感があります。なぜなら共感とは、何かに対して「そうだなあ」と〝感じる〟ことであって、意図して〝する〟ことではないと思うからです。
こうした言葉を知ると、人の相談に応じようというときほど「共感しなければ!」と意気込んでしまうかもしれません。しかし、そんなときほど、心を楽にして穏やかな気持ちで話を聴くことをお勧めします。「この人のことを知りたいな、理解したいな」という素直な気持ちで話に耳を傾けましょう。
ところで、相手の話を聴いていて、「ん? よく分からないな(理解できないな)」というときもあるでしょう。それも自然なことです。分かったふりをするのでも、相手を否定するのでもなく、素直に「そのことについて、もう少し教えてほしいのだけれど……」などと尋ねればいいでしょう。
そして、相手の話を理解できたと思ったときにも、早とちりをして決めつけるのではなく、「あなたの言いたいことは、○○ということかな?」などと、こちらの理解や受けとめ方がずれていないか、相手に確かめるような応答を心がけましょう。
そうした応答を丁寧に繰り返していると、「ああ、なるほど、確かにそうだなあ」という〝腑に落ちる感覚〟がこちらに生じてきます。これが、共感と呼ばれるものの内実でしょう。つまり、共感とは〝相手の理解に努めた結果として生じるもの〟なのです。
カウンセリングでは、このような姿勢を〝共感的理解〟と呼んでいます。なぜか一般には、共感という言葉だけが独り歩きをしてよく知られているのですが、むしろ大切なのは〝理解〟することですから、覚えておいてください。
共感的理解に努めていると、こちらに「もしかしたら、この人はこんなことを感じているのではないかなあ」というような感覚が生じてくることがあります。そんなときは、それも素直に伝えてみましょう。それが相手の腑に落ちれば、お互いに分かり合えたという感覚が得られて、強い信頼関係が生まれることもあります。
日常会話では、これほど丁寧に応答する必要はありませんが、おたすけとして人の相談に応じるときに心がけておきたい姿勢の一つです。
天理時報2017年10月8日号掲載