〝たどり着きたい未来〟へ誘う
金山 元春
事情に悩む人は「どうしてこうなったのか?」との問いが頭から離れずに苦しむことが少なくありません。これが機械の故障であれば、原因を突きとめて修理すればいいのでしょうが、人が関わる事柄は、原因探しが〝犯人捜し〟につながることもあり、それが人間関係の軋轢を生んで、かえって状況を悪くすることがあります。
おたすけ人が、道に迷った人と一緒に「どうして道に迷ったのでしょうね?」とうろうろしていては、その人がたどり着きたい場所へ向かうことはできません。「この人は、どこへ向かいたいのだろう?」「この人は、どうありたいのだろう?」という素直な好奇心を持って、「そのことを知りたい、教えてほしい」という謙虚な姿勢で相手と接することが大切です。
相手の悩みや苦しみに丁寧に耳を傾けた後、穏やかな口調で次のように尋ねてみてはいかがでしょう。
「それは大変でしたね……。その大変な状況の中で、少しでもこうなれば良いのになあと思うことを教えてもらえますか?」「その大変な状況が解決すれば、いまと比べて、何がどんなふうに違ってくるでしょうか?」「いまよりも状況が良くなっていると、あなたは、誰と、どこで、何をしているでしょうか?」
ここで問われていることは「どうして、こんなことに?」との思いが頭から離れず、堂々巡りに陥っている人にとって、想像もしなかったことでしょう。そうであるからこそ、こうした問いかけが大きな意味を持つのです。多くの人は戸惑いつつも、〝たどり着きたい未来〟について語り始めます。これは、それまでの堂々巡りとは風向きが変わり始めた証拠です。
相手から語られる未来の話には「なるほど。もう少し詳しく具体的に教えていただけますか?」などと、新鮮な驚きも交えつつ、一層の好奇心を持って耳を傾けましょう。
〝たどり着きたい未来〟を共に想像し、語り合うことで「それじゃあ、そのために、これから何ができるかなあ」といった建設的な話もできるようになります。やがてその人は、その未来へ向けて力強く歩んでいくことでしょう。
天理時報2017年8月27日号掲載