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十九の春-幸せへの四重奏vol.9-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者


ボストンにある我が家は、築88年の古い家だ。6年前の入居時、天理の父は「ぼろ家じゃないのか?」と心配したが、アメリカでは戦前に建てられた家はとても丈夫に作られている。大工さんのきめ細かい職人魂がいきているのがよく分かる。

このほど、リフォームのために家の中央にある煙突を取り外すことになった。88年間の煤や埃が一気に地下室に広がった。主人と私がマスクをつけて煤を払っていると、奥の本棚に懐かしいものを見つけた。私が学生時代に書いていた日記である。

怠け者の私が日記をつけようと思ったのは、留学して、毎日のペースがとても早いのに驚き、このままだと自分を見失ってしまうと思ったからだ。日記を書くことで、毎日の変化や学んだこと、感じたことなどを自分の中におさめることができた。

読み返すと、青春時代の私が戻ってきた。楽しかったこと、つらかったことを含め、毎日が生き生きしていたのがよく分かる。先生に言われたことや授業で学んだことが、いまの私にとても役立っているのも分かる。

一番印象的なのは、日本から留学していた仲間たちのことだ。私たちは日本人同士だが、互いに英語で話そうと決めていた。せっかく留学してきているのに、いつも日本人同士でいると、何のためにここにいるのか分からない。日本語を使うと英語の単語が一つずつ減るというくらいの気持ちだった。

私たちは、互いの夢をよく語り合った。リュウジ君は水中生物のプランクトンへの情熱を語り、シンイチ君はいつか会社を立ち上げると言い、シンイチロウ君は人の心を動かすような新聞記事を書きたいと言った。ヒロエちゃんは良い薬を開発したいと言い、私は音楽家になりたいと言った。それぞれがちゃんとした自分の目的を持って留学してきていたので、毎日が充実していた。

あれから25年近くたったいま、みんなちゃんと夢が叶っているではないか。リュウジ君はプランクトン博士になり、台湾の中央研究院で働いている。シンイチ君は社員が5千人もいる会社を立ち上げた。シンイチロウ君は某新聞社の北京支局長。ヒロエちゃんはサンディエゴにある大製薬会社の研究員だ。できることならば、あのころの自分たちに、「夢はちゃんと叶うから、あきらめないで!」と教えてやりたい。

いまでも、この仲間たちとはつながっている。
日記の中に、私の初恋のことも書いてあって、ドキッとした。誰にも見られないよう、そっと本棚に戻した。

天理時報2018年3月18日号掲載