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Special Interview

熊谷俊人・千葉市長が「イクメン」像語る「ワークとライフは分けられない」

熊谷 俊人千葉市長

熊谷俊人

 育児を積極的に行う男性「イクメン」。その言葉は広く浸透する一方、昨年の男性の育児休暇取得率は、わずか2.3%。男の子育てを〝はたらく力〟につなげるには――。子育て政策を「最重要課題」に掲げる熊谷俊人・千葉市長に話を聞いた。

――ご自身も二児の父親として子育てに取り組んでいるそうですね。男性の育児の課題は。

 「時間単位の有給休暇」を広めることが大切だと考えています。「育児休暇を取った」という男性に何日取得したのか尋ねると、ほとんどが3日間程度。女性たちからは「それくらいで〝イクメン面〟されても困る」との声を聞きます(笑)。
 私たち夫婦も共働きなので、日中は子供たちを保育園に預けているのですが、私は週に数回仕事を少し早く切り上げて、子供たちを迎えに行っています。
 3日間の育児休暇よりは、年間通して毎週数時間の「休暇」を取って、代わりに母親が自分の時間を週1日持つほうが、よっぽど大切だと思うんです。
 育児にも〝グラデーション〟があります。「0 or 100」は厳し過ぎる。千葉市では商工会議所などを通して「時間休暇」「部分休業」の導入を積極的にお願いしています。

「将来の育児」考えた就活を

――提言されている「職住近接」とは。

 私自身、以前は民間企業で働いていたのですが、通勤電車に揺られるうちに、〝戦場〟へ行くような気持ちになってしまうんです。職場にも、〝戦果〟を挙げるまでは家に帰れないといった雰囲気がある。
 けれど、もし住まいの隣に会社があったら、そんな意識にはならないと思うんです。だから私は、日本全体で「職住近接」を進めるべきだと訴えています。日本人の通勤時間は、諸外国の約1.5倍。職場が自宅から遠くない距離にあれば、仕事と育児はもっと柔軟に両立できるはずです。
 実際、従業員一人当たりの子供の数を算出すると、福利厚生が整った大企業よりも、地方の中小企業のほうが数値が高い。地方の企業の場合、従業員の多くが職場の近くに住んでいるからだと思われます。
 いますぐ会社の場所を変えることは難しいですが、結局のところ、私たち男性は女性よりも子育てのことを〝考えていない〟のだと思います。将来、自分が育児することを想定して会社を選んだ男性サラリーマンが、どれくらいいるでしょうか? 男性の子育てが本当の意味で浸透した社会は、就職活動の段階から、誰もが育児のことを考える社会だと思います。
 その第一歩として、私どもの市では、母子手帳と共に「育男手帳」を配布しています。私自身も、子供が生まれてようやく「父親」だと実感しました。いまの行政には、父親に対して子供の誕生前からアプローチすることが求められているのです。

大人の仕事観は社会の未来

――民間出身の市長として、職員の意識改革にも取り組まれていますね。

 公務員は市民の期待に応えて当然と思われがちな分、職員の仕事に対するモチベーションは上がりにくい部分があります。だからこそ、市の未来像を共有し、「なんのための仕事か」を繰り返し説いてきました。
 子育てに関することでは、職員の子供たちを市役所に招待する日を設けました。1日限定でお父さん・お母さんと一緒に働いてもらうと、やっぱり子供たちは「格好いい」と感じるようです。職員たちの気持ちも高まるんですよね。
 子供にとって、親は「働く」ということを伝える最初の人間です。「仕事というのは、誰かのために何かをして、その喜んでもらった分のお金をもらうことなんだよ」――。そうした仕事観を伝えること、何より、いきいきと誇りを持って働いている父親・母親の姿は、社会の未来に直結すると思っています。

〝生きている瞬間〟感じる時

――女性の社会進出との関係では。

 男性の子育てが議論されるとき、よく「ワークライフバランス」という言葉が使われます。しかし、私はこの言葉に少し違和感を覚えるんです。
 日本人にとって、本来「ワーク」と「ライフ」は分けられるものじゃない。「誰かの役に立ちたい」と思って仕事をするとき、人は働く中に〝生きている瞬間〟を感じるはずです。
 千葉市では、今年2年連続で保育所の待機児童「ゼロ」を達成したのですが、就任直後、働いていない母親を対象に「もし子供を預けられるなら、働きたいですか?」とアンケートしたところ、「はい」の回答が半数近くに上りました。
 働きたいという思いは、人間の本質的な欲求です。待機児童の解消は、市の最重要課題の一つとして取り組みました。
 少子高齢化で労働世代が減少している以上、女性の力がなければ、もはや社会は維持できません。もちろん、女性が一生懸命に子育てに取り組むのはあるべき姿ですが、その一方で「家事も育児も女性」のままでは、女性の仕事は増え続ける。私は市の公的文書から「父親の育児参加」という言葉を無くしました。「母親の育児参加」とは誰も言いませんから。
 皆が誰かの役に立つ。そんな幸福度の高い社会を実現する第一歩が、男性の子育てにあると考えています。

天理時報2015年10月18日号掲載

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【くまがい・としひと】1978年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社に入社。2006年、NPO法人「一新塾」に入塾し、翌年、千葉市議会議員選挙に初当選。09年、千葉市長選挙に立候補し、当時全国最年少記録となる31歳で当選を果たす。夷隅分教会ようぼく。