JOYOUSLIFE(ジョイアスライフ) - あなたが陽気に 世界を陽気に

音楽の力-幸せへの四重奏vol.9-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者


 ボストンマラソン爆弾テロ事件から、この4月15日で5年を迎えた。毎年、家族でマラソン観戦をしているが、あの日もバギーに乗った1歳半の次女をあやしながら、私はゴール近くでランナーにエールを送っていた。

 一方、長女は、友人家族とレッドソックスの野球観戦に行っていたが、試合が早く終わりそうだと聞き、急いでその場を離れた直後に事件が起きた。

 突然の爆音、異様な匂いと煙、人々のパニック。警備の警察官たちが現場へ走る。私は何が起こったのか分からないまま、なんとか大混雑の中を野球場にたどり着いた。

 そして娘を見つけ、バスに飛び乗り、そこで初めて事件の概要を知った。さっきまで一緒に観戦していた家族連れは、どうしただろう。走者たちは? もし野球が早く終わっていなかったら、どうなっていただろう。さまざまな考えが頭を駆け巡った。

 3日後、容疑者兄弟の写真が公開された。その夜、またしても事件が起こった。逃走中の容疑者が警察官を射殺してパトカーを奪い、人質を乗せたまま逃走。警官隊と住宅地で撃ち合いになり、一人は射殺、もう一人は付近の家に逃げ込んだのだ。マサチューセッツ州知事がロックダウンを宣言した。ロックダウン宣言とは、何があっても一歩も外へ出るなという命令で、出た場合は射殺を覚悟しろというものだ。街中が凍りついた。

 撃ち合いがあったのは、自宅から車で5分のところだ。夜中、ヘリコプターが家々の窓や庭を強烈なサーチライトで照らしながら、超低空で飛び交ったという。主人は、子供たちが怖がらないよう、本を読み聞かせたり映画を見せたりと、必死だったそうだ。

 その日、私はコロラド州にいた。高校生の室内楽フェスティバルで教えるためだ。帰りたくても、ロックダウン宣言で帰れない。いたたまれない気持ちで、いまの自分にできることは何かと考えた。

 そして、半年前のベネズエラへの旅を思い出した。社会変革を目指した音楽教育「エル・システマ」に招待され、室内楽を教えた。運動創設者のアブレウ博士は「将来、銃を持つ代わりに子供に楽器を与えよ」と訴えた。貧富に関係なく、すべての子供が無償で音楽教育を受けられる仕組みだった。子供たちが協調性や規律を学びながら目標に取り組むことで、希望や誇りを持たせることを目的としていた。

 容疑者たちに〝音楽の心〟があり、一緒にいい音を作ることを経験していれば、人を傷つけようなんて思わなかったのではないか。私は、いま目の前にいる高校生たちに、音楽の楽しさ、一緒に演奏することの喜びを伝えることが自分の使命だと思った。

 この原稿を書いている最中にアブレウ博士の訃報が届いた。ご遺志を大切にしたい。

天理時報2018年4月22日号掲載





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