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寄りそう心-幸せへの四重奏vol.13-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者


最近のニュースで、私が大好きだった有名な料理人の死を知った。
世界各地を飛び回り、現地の人と交流し、彼らの自慢の料理を一緒に楽しむ姿は、視聴者に未知の世界への好奇心を沸き立たせ、「自分もいつか行ってみたい!」と思わせた。

テレビでは、いつも笑顔でイキイキとしていた彼も、私生活では「躁うつ病」に苦しんでいたらしい。

数年前に米俳優のロビン・ウィリアムズ氏が同じく躁うつ病で亡くなった日、私はボストンのパブリックガーデンにいた。
彼の代表作である映画『旅立ち』には、パブリックガーデンのベンチで語り合う有名なシーンがある。
ちょうど、そのベンチの近くを通りかかったときだった。

名優の死を悼むファンたちが、彼の残した名言や映画の中の有名なセリフを、チョークでベンチの側の歩道に書き始めたのだ。
すると、そこに居合わせた人々が、つられて無言で書きだした。
私が立ち止まっていたほんの15分の間に、公園内の歩道がカラフルな言葉でいっぱいになった。
それは、ウィリアムズ氏を亡くしたファンが、彼の死の悲しみを、彼の生きていたときの美しさに変えた瞬間のように見えた。

人を笑わせる天才だったウィリアムズ氏の言葉がある。

「出会うすべての人が、あなたには分からない問題を抱えている。だから、いつも人には親切にしよう」

人がどんな悩みを抱えているかは分からない。
実際に私も、どんなに苦しい思いをしていたとしても、「元気?」と聞かれれば、笑顔で「元気よ!」と答える。そんな私を見て、「本当はどうなの?」と、じっくり話を聞いてくれるのは、自らも心底悩んだ経験を持つ人たちだった。

悩み苦しんでいるときにアドバイスはいらない。
ただ、じっと話を聞いてくれる人が必要なのだ。
頭や心をいっぱいにしている感情を、内に秘めている思いを、外へ出してあげることが必要なのだ。

私は音楽院の廊下で会う生徒たちに、名前を呼んで顔を見て、「元気?」と声をかけるようにしている。
特に親元を離れたばかりの、初めの数年間は孤独感が増していく。
そんなときに、名前付きで挨拶を交わすことで、彼らの居場所をつくってあげられるのではないかと思う。
実際に生徒たちの中には、誰にも言えなかった悩みを打ち明けてくれる子もいる。

いつでも生徒が心を開いて話してくれるよう、孤独な思いをしないよう、私は常に寄りそう心を持っていたい。

天理時報2018年8月26日号掲載