第9回:それは誰の問題ですか?
山﨑洋実

こんにちは。ひろっしゅコーチこと山﨑洋実です。
私の講座「ママのイキイキ応援プログラム(通称:ママイキ)」は全五回の連続講座です。講座の中ではさまざまなお話をしますが、受講生さんたちの反応が一番大きいのが「区別」の回。今回はこの「区別」について書いてみようと思います。
往々にしてお母さんたちは、自分とわが子を一体視する傾向があります。子供を自分の思うようにコントロールしたがる。子供の感情を自分のことのように受け止めて必要以上に動揺してしまう。程度の差こそあれ、お父さんよりお母さんの方が、この傾向が強いように思います。
その問題で困るのは誰?
例えば、こんな状況を想像してみてください。あなたのお子さんは中学一年生です。入学してバレーボール部に入りました。一年生は、雑用を担当します。いろいろな雑用がある中で一番大変そうに見えるのは、たくさんのボールが入った大きなケースを試合会場まで持ち運ぶ係。試合の前日に自宅にボールケースを持ち帰り、翌日は試合会場まで大荷物を抱えて移動しなくてはなりません。そして、わが子は入部してからずっとボールケースの係ばかり担当しています。その状況を目の当たりにしたとき、あなたならどのように感じ、どのように行動しますか?
「うちの子ばかりが大変な係をしなければならないなんてかわいそう」
「不公平だから、順番でやるように子供同士で話し合いをさせたらどうか」
「親から顧問の先生に言って、指導してもらった方がいいのでは」
講座内でお母さんたちに話し合ってもらうと、このような「かわいそうなので、改善させるべき」という意見が出ることが多いです。でも、同じ質問をお父さんたちにしてみると、まったく違う意見が出てきます。
「それの何が問題なの?」
「嫌だったら自分でどうにかするでしょう」
試しに、ご主人にも聞いてみてください。
一般的に母親に比べて父親の方が「離別感」を持っています。離別感を持っているということは、自分とわが子は別の人格であるということ、違う感情を持ち、違う考えを持ち、違う選択をする生き物であるということを理解しているということです。とはいえ、最近は母親化しているお父さんも多いように思いますが……。
このバレーボール部の例も、基本的には本人の問題なのです。本人は気にしていないかもしれないし、何かの理由であえてその係を選択しているのかもしれない。どうしても気になるなら、「本当はどう思っているの?」と聞いてみればいいのです。
何かトラブルが起こったときに、「それは誰の問題なのか」を意識することはとても大切なことです。「その問題で困るのは誰?」ということを整理して考える癖をつけてみてください。「子供が勉強をしない」「何度言っても忘れ物をする」なんていつもイライラしてしまうお母さんも、「勉強せずに困るのは誰?」「忘れ物で困るのは誰?」と考えてみると、困るのは本人であってお母さんではないですね。いえ、そもそも困るかどうかも本人が決めることなのです。「このままだと失敗する。失敗したら困る」と言いますが、失敗しても自分で何とかする力があればいいのです。
失敗する機会を奪わないで
親が何でも先回りして失敗しないようにお膳立てしてあげれば、子供は困ることなく生きていけるかもしれません。でも、「失敗する経験」をする権利を奪われた子供は、お膳立てしてくれる人がいなければ何もできなくなってしまうのではないでしょうか。私は「成功」の対義語を、「失敗」ではなく「学び」だと思っています。失敗の中には、成功につながる学びの種がたくさん詰まっています。たくさん失敗して、たくさん学ぶ。子供時代はそれが許される貴重な時間なのです。
「あんなふうになりたい!」という目標ができたとき、「このままではダメだ」と危機感を持ったとき、人は必ず変わります。親が「あんなふうになってほしい」「このままでは、この子はダメだ」といくら思っても、子供は変わらないのです。親にできることは、子供本人が危機感を持つ機会を奪わないことです。子供が危機感を持つ前に親が助けてしまうのではなく、「やるときはやる子だ」と信じて待つことなのだと思います。
以前にこの連載でも書きましたが、「ヘルプとサポート」の違いを覚えていますか。ヘルプは「あなたにはできないから、私が代わりにやります」という関わり。そしてサポートは「あなたにはできる力がある。困ったときには手を貸すからね」という関わりです。生まれたばかりの赤ちゃんはまだ何もできませんから、百パーセントのヘルプが必要です。でもそこから十歳くらいまでに完全にサポートに移行できるのが理想。
親は子供のサポーターとして一番近くで見守り応援する役割なのですね。子供の代わりに、子供の人生を生きることはできないのです。子供の人生と自分の人生を区別すること、失敗も成功も子供の人生に起こることは全て子供本人が経験し、感じ、考える権利があるのだということを、いつも意識してみてくださいね。
【山﨑洋実(やまさきひろみ)】
HAPPY MOMMY プロデューサー&コーチ。「Fine-Coaching」主宰。結婚後にコーチングを体系的に学び、自身の妊娠出産を経て、「ママのイキイキ応援プログラム(通称:ママイキ)」をスタート。ママ向けコーチングの第一人者として「ひろっしゅコーチ」の愛称で親しまれ、全国の悩めるママたちにアドバイスを送っている。