第19回:手が掛かった子ほど、いい思い出になる
山﨑洋実

こんにちは。ひろっしゅコーチこと山﨑洋実です。
落ち着きがない、騒がしい、いたずらばかりする、などやんちゃ坊主タイプのお子さんを私は「ヤンチャリカ」と呼んでいます。ヤンチャリカなお子さんは、端から見ている分には子供らしくてほほ笑ましかったりもするのですが、それがわが子となると大変なものですよね。叱ったり、言い聞かせたり、あれこれ試してもイマイチ響かない。時には周りに頭を下げてお詫びするようなこともあるかもしれません。
ヤンチャリカは伝説になる
ヤンチャリカはもちろんのこと、泣き虫や甘えん坊、寝ない子食べない子、ここぞと言うときに熱を出す子などなど、手の掛かる子を育てるのは大仕事。昔から「手が掛かる子ほどかわいい」などと言いますが、渦中にいるときはそんなことを思う余裕などないくらい、しんどいことも多いと思います。
でも、子育てを終えた先輩ママたちに話を聞くと、手が掛かった子ほど思い出すエピソードも豊富。過ぎてしまえば笑い話になっていることも多いようです。「あのとき、あんなことがあった」「このときは、こんな事件が起きた」と当時の記憶も鮮明。何でもないような日常の風景の中にも親子の濃密な思い出がたくさん残っていて、その一つ一つが伝説のように家族や周りの人たちに語り継がれていくのです。それを語るママの顔には、大事業をやり遂げた達成感のような晴れ晴れしい表情が浮かんでいるようにも思います。
私の一人息子はヤンチャリカとは正反対の、全く手の掛からない、いわゆる「育てやすい子」でした。一人遊びが上手で聞き分けがよくおとなしいので、周りのお母さんたちからはうらやましがられたものです。人前で大声で叱ったり、走り回る息子を追い掛けたような記憶はほとんどありません。だから息子が中学生になった今、幼少期を振り返ってみると「あのときは大変だったね」と語れるエピソードはそれほどありません。今となってはそれが少し寂しく感じたりもしています。
だから今、子育てという嵐の真っただ中にいる皆さんには、子供たちが引き起こすあれこれに直面したときに「また伝説が一つ増えたわ」と楽しむ心の余裕を持ってほしいと思います。カーッと頭に血が上ったり「まったくもう……」とため息をついたりしてもいいのです。そんな自分のことも含めて、いつかこの出来事が丸ごと「伝説」になる日が来るのだと、そんなふうに思えたら、嵐の中に凪が訪れる一瞬があるかもしれません。
子育ての日々は幸せな記憶に
子育てには必ず終わりが来ます。どんなに手を掛けてあげたいと思ってもかなわない。そんな日が必ずやって来るのです。そして、最後を味わい尽くせないのが子育てというものです。例えば、子供と手をつないで歩くこと。例えば、スプーンに手を添えてごはんを食べさせること。例えば、一緒のベッドで眠ること。どれも「今日が最後」とは分からないまま、いつの間にか終わっていきます。気が付いたら子供たちは一人で何でもできるようになっているのです。
一人の子に行うオムツ替えの回数はおよそ六千回だという説があります。この数字は生まれたときから減っていき、いつかゼロになるカウントダウンの数字です。手をつないで歩く回数も、抱き締める回数も、子育ての数字は全てカウントダウン。増えることはないのです。
もし、手をつなぐのが最後だと分かっていたら、つないだ手のぬくもりを感じながらいつもより遠回りをして帰ったかもしれません。もし、ごはんを食べさせるのが最後だと分かっていたら、面倒がらずに優しくスプーンを口に運んであげたかもしれません。もし、一緒のベッドで眠るのが最後だと分かっていたら、子供が満足するまで何冊も何冊も絵本を読んであげたかもしれません。でも、日常にまぎれて「最後」はいつの間にか過ぎていき、小さかったわが子はもういない。それが子育てというものなのですね。
いつか子供が大きくなって、子育てのあれこれが全て終わりを迎えた後に、慌ただしくてにぎやかだった日々のことを私たちは懐かしく思い出すことでしょう。そのとき思い出すのはきっと、幸せな記憶です。今ヤンチャリカにどんなに手を焼いていても、しんどかったり大変だったりしても、きっと「あの頃は大変だったね」と笑い話になっているはず。
だから子育て真っ最中の今は「伝説を記憶する時期」として、たくさん子供たちのエピソードを味わいましょう。いつかその伝説を披露することを楽しみにするのもいいですね。伝説のスケールが大きければ大きいほど、聞き手は盛り上がります。きっとヤンチャリカたちの数々のエピソードは、将来、たくさんの人を笑わせてくれることでしょう!
【山﨑洋実(やまさきひろみ)】
HAPPY MOMMY プロデューサー&コーチ。「Fine-Coaching」主宰。結婚後にコーチングを体系的に学び、自身の妊娠出産を経て、「ママのイキイキ応援プログラム(通称:ママイキ)」をスタート。ママ向けコーチングの第一人者として「ひろっしゅコーチ」の愛称で親しまれ、全国の悩めるママたちにアドバイスを送っている。