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第20回:あなたがいてくれてうれしい、と伝えよう

山﨑洋実HAPPY MOMMY プロデューサー&コーチ


こんにちは。ひろっしゅコーチこと山﨑洋実です。

この連載でも何度かお伝えしてきましたが、私たちはみんな「認められたい」生き物です。コーチングの専門用語ではそれを「承認欲求」と言いますが、「自分の能力や成長を評価してほしい」「自分のことを分かってほしい」という感情は、誰もが持っている自然な欲求の一つなのです。そして、承認欲求の中でも一番ベーシックで普遍的な欲求は、「存在を認められたい」というもの。私たちは誰もがみんな、「自分は愛されている」「この場に受け入れられている」という安心感が欲しいのです。

みんな「そのままの自分」を受け入れてほしいもの

誰かとコミュニケーションを取ろうとするとき、相手の持ち物や行動、そして才能を褒めるという手段を私たちはよく使います。「そのスカート、すてきね」「○○大学出身なんてすごいね」「スタイルが良くてうらやましいわ」なんて言われるとうれしいものですし、何となくコミュニケーションが円滑になるような気もします。

でも私たちが本当に欲しいのは、持ち物や才能に対する賞賛ではありません。すてきなスカートを持っていなくても、いい大学を出ていなくても、スタイルが良くなくても「そのままの自分」を受け入れてくれる存在。自分が愛されているという実感。それを追い求めて私たちは生きているのだと言えるかもしれません。

人間関係がうまくいっている人は、存在承認が上手な人が多いもの。自分からあいさつをしたり話し掛けたりして、相手に「あなたの存在を受け入れているよ」「会えてうれしい」というメッセージを伝えているはずです。あいさつは、最大の存在承認ともいわれます。どんな場においてもまずは自分からあいさつをしてみると、その後の人間関係は驚くほどスムーズになるものです。

私の亡き父が最期を迎える直前のことです。末期がんで余命わずかと宣告された父は、その頃にはもう意識もなく、病院のベッドの上で寝ているだけの状態でした。完全看護の病院で、着替えやおむつのお世話は全て看護師さんにお願いしなければなりません。私たち家族にできることといえば、父のことを近くで見守って何か変化があれば看護師さんに知らせることくらいでした。

看護師さんたちは皆さんテキパキと父のお世話をしてくださいました。たくさんの看護師さんが入れ替わり立ち替わり父の元へやって来ては、手早くおむつを交換していきます。私たち家族にもにこやかにあいさつをしてくださいます。でも、意識のない父に対して、私たち家族に対するのと同じように丁寧に声を掛けてくださった看護師さんは一人だけでした。

その看護師さんは父に対して、「おむつを替えますね」「さっぱりしましたか?」などと普通の患者さんと同じように声を掛けてくれました。それは大げさなようですが、父の「人としての尊厳」を守ってくださっているようにも思え、私たち家族はとても救われた気持ちになりました。その看護師さんは父の存在を「承認」して、それをきちんと言葉にして伝えてくださったのですね。

だから私は、父に残されたわずかな回数のおむつ交換の機会を、できる限りその看護師さんにお願いしたいと思いました。おむつ交換のタイミングが近づくと、私はナースコールを押さずに病室の廊下に出て、その看護師さんが通り掛かるのを待ったものです。最期を迎えるその瞬間まで、父に「人として大切にされている」と感じてほしかった。それは娘として、私が父にしてあげられる唯一のことだったのです。

子供の存在を認める声掛けを

子育ての場面では、「どんなあなたでも大丈夫。テストの点が良くても悪くても、スポーツができてもできなくても、ありのままのあなたのことが大好きだよ」というメッセージが「存在承認」です。存在そのものを受け入れられる経験を重ねていくことで、子供たちは自己肯定感を育んでいくのです。

私たち母親は、「お手伝いして偉いね」とか「百点取ってすごい」など、その子の行動や結果を褒めることが多いと思います。もちろんそれも悪いことではありません。でも時々は、その子の存在そのものを認める言葉掛けをしてみてはいかがでしょう。例えば「お手伝いしてくれて助かったよ、ありがとう」と声を掛けると、自分の存在がお母さんの役に立ったという喜びを感じることができます。「百点を取るために勉強を頑張っていたことを、ママはちゃんと知ってるよ」と言えば、自分が大切に見守られている存在なのだと実感することでしょう。

身近な相手へのコミュニケーションはついぞんざいになってしまうものです。家族や友人など大切な相手にこそ、「あなたがいてくれてうれしい」というメッセージを言葉にして伝えてほしい。子供はもちろん、大人だってその一言が生きる糧になったりするのだと私は思うのです。

さんさい


【山﨑洋実(やまさきひろみ)】
HAPPY MOMMY プロデューサー&コーチ。「Fine-Coaching」主宰。結婚後にコーチングを体系的に学び、自身の妊娠出産を経て、「ママのイキイキ応援プログラム(通称:ママイキ)」をスタート。ママ向けコーチングの第一人者として「ひろっしゅコーチ」の愛称で親しまれ、全国の悩めるママたちにアドバイスを送っている。