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生きる力-幸せへの四重奏vol.18-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者


私の大学卒業が近づいたころ、教授が学生たちの話し合いの場を設けてくれた。あるクラスメートが「将来、音楽家になったとき、音楽だけで家族を養っていけるのか心配です」と言った。同感だといった表情の学生たちに、教授は言った。
「生活に困らないかとか、仕事があるのかなんてことを心配しているようでは、あなたに音楽家になる資格はない」
さらに「音楽家は自分の人生で、音楽なしでは生きていけないくらいの意気込みがないとやっていけない」と。
当時は胸に突き刺さる言葉だったが、いま自分が音楽家になってみると、その意味がよく分かる。
初めてボロメーオ弦楽四重奏団のメンバーと出会ったとき、私は最初に演奏した15分間で、「同じ言語を喋る仲間を見つけた」と思った。そして、このままずっと生涯にわたって一緒に演奏できたら、どんなに嬉しいかと思った。
そこには、給料はいくらかとか、生活はちゃんとやっていけるのか、なんていう思いは少しもなかった。実際、ボロメーオに入るとニューイングランド音楽院で教えるという仕事が付いてくるなんて、全く知らなかったくらいだ。
音楽家は、世間から見るとキラキラしていて、贅沢な職業に見えるかもしれない。でも現実は、ほとんどの場合、イメージとは正反対だ。コンサートはあっても出費が多く、マネージャーへの給料や宿泊・移動費などを払った後では、出演料はほとんど手元に残らない。それでも一生懸命に練習を重ね、リハーサルを続け、コンサートで納得のいく演奏ができたときの満足感というのは、演奏者にしか味わえないだろう。その満足感を求めて、また練習を重ねていく。

音楽院の授業で「将来の理想の職業」というテーマで学生たちと語り合ったことがある。彼らはそれぞれの思いを語り、でも現実には程遠いと互いに苦笑していた。私はさらに、彼らに「なぜ音楽院に来ようと決めたのか?」とも聞いてみた。すると、全員が異口同音に「音楽なしでは生きていけないと思ったから」と答えた。私は「将来、どんな職業に就いたとしても、そのときの初心を思い出し、原点に戻ることを忘れないでほしい」と話した。
そういう私自身も、これからどんなに大変でつらい思いをしても、自分が音楽家になろうと思った原点を思い出し、音楽を生きる力として歩いていこうと思っている。

天理時報2018年4月14日号掲載