JOYOUSLIFE(ジョイアスライフ) - あなたが陽気に 世界を陽気に

JOYOUSLIFE(ジョイアスライフ)は「陽気ぐらし」の手がかりとなる記事を厳選した、キュレーションサイトです。

お椀の中の壮大な宇宙
ベジアナが見た「お節会」

小谷あゆみ フリーアナウンサー、農業ジャーナリスト

天理のお正月。お供えの鏡餅が振る舞われる「お節会」のお雑煮がとにかく美味しいから、「一度、食べに来ませんか?」と誘われて初めて訪ねました。

教会本部の檜造りの神殿が厳かな風格と美しさを放ち、礼拝場では人々がかんろだいへ向かって祈りを捧げています。神聖な殿内に響き渡る祈りの声の共鳴は、たとえ私のように教えを知らなくても、愛情と安らぎに満ちた気配を感じることができます。そして驚くのは、若い女性や家族連れが多いことです。子供のにぎわいは、この天理の地が、180年もの間いかに人々に親しまれ、生活に密着し、命を育んできた「親里」「おぢば」であるかを物語っています。

午前10時にお節会会場への門が開かれると、人々はお神酒を頂き、一斉に各会場へ向かいます。迎えるのは蛍光色のジャンパーを着た職員や学生たち。人の列をつくって、帰参者に「おめでとうございます」「おかえりなさい」と声をかけています。ここを訪れる人は、みな帰ってきたきょうだいなのだと聞いて、わたしはじ~んと来ました。

第1会場の大きな食堂は、またたく間に何百人もの人で埋まり、長テーブルの間を、おそろいの黒いハッピに「給仕」という札を付けた天理高校生や大学生らが行き交います。お餅、水菜、ヤカンに入ったお出汁を順に注ぎ入れていく分業は、実によく考えられていて、好みの加減を伝えれば、湯気の上がるお雑煮を何杯でも頂くことができるのです。

学生たちの陽気なひのきしん

感心させられたのは、この天理高校生たちの働きぶりです。二人一組になってお餅を配ったり、水菜やお出汁のおかわりを注いだり、テキパキと動く様子の実に気持ちいいこと。生徒たちの表情には、〝やらされている感〟が全くないのです。

「ひのきしん」について考えました。「寄進」という働きによって「徳を積む」というのが、一般的な理解でしょうが、生徒たちには「救われたい、徳を積みたい」というような堅苦しさはなく、まるで学園祭か部活のように和気あいあいとして、仲間と楽しそうに給仕しているのです。精進や奉仕といった義務感とは無縁の屈託のなさで、〝部活感覚〟のひのきしんが身に付いているのだと思いました。

最近の人は他者に無関心で、当事者意識が希薄だといわれがちですが、天理の若者たちは、自ら率先して働くことが〝大いなるもの〟に喜ばれ、自分も心地良いことを身体感覚として知っているのでしょう。その無邪気で陽気なエネルギーが周りにも伝わるため、来た人はつい、お雑煮をもう1杯おかわりしたくなるようです。わたしも、お餅は控えめに2杯頂きました!

新年を迎えるのは餅焼きから

体育館のように広い餅焼き場には、何十メートルもある長い炉が14列、その両側にぎっしりと人々が並び、網の上でお餅を焼いています。少し体験させてもらうと、炭火から放射される熱が顔に直撃し、座っているだけで熱く、背中に汗がたらり。ほどよい焦げ色になるよう気を配りながら、1日平均2万5千人分ものお餅を焼くのですから大変な作業です。顔を真っ赤にして団扇であおいでいた50代くらいの女性にお話を伺うと、なんと天理高校時代からお節会に参加し、毎年この餅焼きをしないと新年を迎えた気がしないと話してくれました。

お雑煮に欠かせない水菜は、その多くが名張分教会(中森昌昭会長)の信者さんからのお供えで、重さにして実に10トン! 9月に種をまき、収穫は1月2日と決まっているそうで、お供えは50年以上続いています。天候に左右される露地栽培で、ぴたりと収穫日を決めて出荷するとは、相当な技術です。

そうして炊事本部に運び込まれた600ケースもの水菜を、きれいに処理して水洗いします。ゴム手袋越しに凍てつくような冷たさが手に伝わるなか、女子も男子も笑顔で作業していました。さらに、天理高校の農事部が栽培している水菜畑へも案内してもらいました。山の辺の道のそばにある畑で、天理の大地に育まれた水菜が、みずみずしい葉を勢いよく茂らせていました。

雑煮に込められた〝祈り〟

天理のお雑煮の始まりは、お供え物のお下がりです。水菜もお餅も、お供えものだと思えば、手抜きやごまかしをする人はいないでしょう。誰が見ていようがいまいが、自分にできる最善の仕事をするはずです。そうした心が集まって出来たお雑煮には、味つけや調理法では量れない美味しさ、つまり〝人々の祈り〟が込められています。

頂いたお雑煮は、赤いお椀、白いお餅、緑の水菜の三色で、一つの世界観を表しています。丁寧にはらわたを取り除いたいりこ(煮干し)と昆布の出汁、もっちり粘りのあるお餅とおこげの香ばしさ、シャキシャキとした水菜によって、海のものと山のものとが出合い、お椀の中に壮大な宇宙が込められているようでした。 

年の始めにお雑煮を頂くことは、誰もがかけがえのない存在で、それぞれに居場所と役割があり、自分らしさを発揮することで周りを助けることができる、みんな大家族の一員なんだと確認するためなのかもしれません。

文・写真=小谷あゆみ


【こたに・あゆみ】
1970年、兵庫県尼崎市生まれ。関西大学文学部卒。石川テレビのアナウンサー時代、番組企画で家庭菜園を始めたのをきっかけに、野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として活動。これまで全国の自治体の農畜産現場を1000カ所以上取材。一方で、介護番組での取材経験から、福祉や介護をテーマに講演も行っている。現在、NHK番組「ハートネットTV 介護百人一首」などの司会を務める。フリーアナウンサー。農業ジャーナリスト。東京都在住。
ブログ「ベジアナあゆの野菜畑チャンネル」https://ameblo.jp/ayumimaru1155/


天理時報1月20日号 掲載