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特別寄稿 観戦記 大学選手権決勝
ラグビージャーナリスト 村上晃一

「日本一」は目の前にある

スポーツ専門局「ジェイスポーツ」の解説者になって20年になるが、試合の解説中に感動で言葉が出なくなったのは初めてだった。両チームの選手たちが、渾身の力でぶつかり合い、規律正しく、一心不乱にボールを追う姿には神々しさすら感じた。一緒に解説していた元日本代表の野澤武史さんも、終盤、涙をぬぐっていた。観戦した多くの皆さんも、同じような気持ちになっただろう。

2019年1月12日。東京・秩父宮ラグビー場には、2万人を超える観客が集い、立錐の余地なく席を埋めた。

22シーズンぶりの優勝を狙う明治大学は、この世代最高の逸材がそろう才能集団。対する天理大学は、全国的には無名の選手が多く、トンガ出身の3人を除けば、体格も明治に比べてひと回り小さい。そんな選手たちが、天理伝統の走り勝つラグビーに加えて、強力なスクラムを身につけ、9連覇中の帝京大学を破って勝ち上がってきた。下馬評では「天理有利」の声さえ聞かれた。

午後2時15分、キックオフ。先制したのは天理だった。前半3分、スクラムで反則を誘い、ゴール前でのラインアウトを得ると、HO島根一磨キャプテンが左コーナーにトライ。5‐0とする。

以降は明治が主導権を握り、WTB山崎洋之が右コーナーに飛び込む。これで同点。その後も明治は多彩な攻撃で天理の防御を揺さぶり、前半は12‐5の明治リードで折り返した。

後半10分過ぎ、優勢だった天理のスクラムがまとまりを欠いて反則を犯し、ペナルティゴールを決められ、15‐5。21分にも明治にトライを追加され、22‐5と大きなリードを奪われる。

その場にいた誰もが、明治の快勝を確信しただろう。しかし、天理の選手たちは諦めていなかった。キャプテンを先頭に自陣から思いきって攻め、猛反撃に出る。29分にはWTB中野豪の快走で明治陣へ深く入り、島根がトライ。22‐10と詰め寄る。

秩父宮には悲鳴と歓声が交錯した。続く35分には、島根の突破からCTBシオサイア・フィフィタがゴールポスト下にトライ。22‐17と1トライ差に迫る。残り時間は5分。スタンドは異様な興奮状態に包まれた。
「メイジ」コールが響き渡るなか懸命に攻める天理だったが、最後はトライを取りきれずにノーサイド。明治は22シーズンぶり13回目の優勝を果たし、天理は悲願の初優勝を逃した。
「よく研究されていましたね」(小松節夫監督)。上背のないフォワードによるラインアウトをはじめ、天理の弱点を巧みにつかれた。ただ、この日の明治は全員が動き続け、的確なタックルを繰り返す、素晴らしいパフォーマンスだった。天理の強さが、才能集団の力を引き出したとも言えるだろう。

鬼気迫る表情でチームを牽引した島根キャプテンは、泣き崩れるチームメイトを整列させ、勝者にエールを送った。
「最後までやりきるのが、天理ラグビーの伝統ですから。悔しいですけど、最後は攻めて終われた。(力を)出しきりました。相手がいないとできないことなので、(明治に)感謝しています。最後にミスが起きたのは、明治のディフェンスが素晴らしかったということです」

敗れてなお相手を称え、感謝の言葉を口にする。立派な態度だった。小松監督は、報道陣に2011年度の準優勝との違いを問われて答えた。
「あの時は一発勝負で優勝を狙いましたが、今回は勝ちに行きました」

立川理道キャプテンのチームは、フォワード戦で劣勢になることを前提として、バックスの決定力でカバーするところがあった。今季は、どんな相手にも真っ向勝負できるチームに成長していた。戦っては何度も跳ね返された帝京大学や東海大学などの強豪チームに学び、寮を完備して栄養面をサポートし、フィジカル、フィットネスを鍛え上げ、チームの目標である「日本一」になる地力をつけての決勝進出である。それだけに敗れたショックは大きいだろう。

試合後、明治の選手たちが笑顔で集合写真におさまる姿を、天理の選手たちがじっと見つめていた。小松監督が言葉をかけたからだ。
「明治は去年、(決勝で)1点差で負けた悔しさを持ってここまで来た。我々もこの悔しさを忘れないよう、目に焼きつけておこう」

決勝戦で敗れた経験は何よりの財産だ。「日本一」は目の前にある。再びこの舞台に戻り、歓喜の雄叫びを上げるため、精進の日々が始まる。

天理時報天理時報1月27日号 掲載

【むらかみ・こういち】
1965年、京都市生まれ。現役時代のポジションはCTB/FB。大学卒業後、ベースボール・マガジン社へ。『ラグビーマガジン』編集長を務める。退社後、フリーのラグビージャーナリストとして活動。著書に『ハルのゆく道』(道友社)や『ラグビーが教えてくれること』(あかね書房)など。