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感謝のしるし-幸せへの四重奏vol.17-

元渕 舞ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者


私の住むボストンの中心部に、ボストンコモンという大きな公園がある。毎年11月になると、カナダから大きなクリスマスツリー用のもみの木が届く。これは1917年12月にカナダの東海岸で起こった爆発事故の際、ボストン市がいち早くカナダへ医師や看護師、必需品などを電車で運び、復興に多大な貢献をしたことへの〝感謝のしるし〟として、カナダからボストン市へ毎年贈られているものだ。
 
14~15メートルもあるもみの木を1千キロ以上離れたボストンへ運ぶのは大変なことだが、18年に最初のツリーが贈られてから、昨年で100年を迎えた。毎年12月になると、ボストン市長がツリーに点灯し、国境を超えた友好を讃える。
 
長女のさくらが2歳半の健診のとき、主治医から成長に気になる点があると言われ、大病院で検査を受けることになった。一日中検査を受け、疲れ果てたさくらを抱いて地下鉄の駅に着いたとき、私は財布も携帯電話も持っていないことに気がついた。先に仕事へ行った主人のかばんに入れたままだったのだ。
 
途方に暮れる私を見て、居合わせた紳士が「これでいけるところまで行きなさい」と切符を買ってくれた。真冬の満員電車で、ぐったりしたさくらを抱いている私に席を譲ってくれる人はいなかった。
 
やっとの思いで着いた駅から一軒の喫茶店が見えた。電車を降り、喫茶店で電話を借りた。主人と私の会話を聞いていたマスターは「ここでゆっくりしていきなさい」と言って、私には温かい紅茶を、さくらには温かいミルクとクッキーを出してくれた。主人が迎えに来るまで、そこで体の疲れを癒やした。あのときのマスターの心づかいを、私はその喫茶店の前を通るたびにさくらに言って聞かせた。
 
13歳になったさくらは、先月、友達と新しいクラスメートの家に集まることになり、着いてすぐ電話してきた。新しいクラスメートは、なんとあの喫茶店の息子だったのだ。さくらから話を聞いたマスターは驚くと同時に大変喜び、迎えに行った私に、またお茶とクッキーを振る舞ってくれた。私は涙ながらに感謝の気持ちを伝えた。いま思えば、マスターにも同じ歳の子供がいて、困っている私の気持ちをよく分かってくださったのだと気づいた。
 
地下鉄で切符を買ってくれた紳士のことも、紅茶を出してくれたマスターのことも、私が感謝の気持ちを忘れず娘たちに伝えていくことで、あのときの親切心がずっと生き続けていくのだと思った。ここまでこられたのは、多くの人たちの大きな親切があったからだ。今年も感謝を忘れずに頑張ろうと思う。

天理時報2018年2月10日号掲載