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Special Interview

〝フィロソフィ〟を拠り所に 社員の意識改革でJAL再建

伊勢田 昌樹日本航空㈱意識改革・人づくり推進部
フィロソフィグループ・グループ長

伊勢田昌樹

 2010年に経営破綻した日本航空(JAL)。「現代の経営の神様」と呼ばれる稲盛和夫氏が会長に就任し、大胆な施策によって、わずか3年で〝V字回復〟を遂げたことは大きな話題となった。実はその復活劇の舞台裏には、同社の企業理念の再定義と、それを実現するための「JALフィロソフィ」浸透への取り組みがあったという。経営再建時から意識面での改革に携わってきた伊勢田昌樹氏に話を聞いた。

――意識改革・人づくり推進部では、どのような業務を?

 経営破綻後、その名の通り、社全体の意識改革を担う部署として初めて設置されました。経済的に会社を再建するだけではなく、全員がもつべき考え方として策定された「JALフィロソフィ」を、グループ会社を含めた約3万2000人の全社員がそれぞれの現場で実際に体現するよう促しています。

無関心が破綻招いた

――当時「改革が必要」とされた社内の意識は、具体的にはどういったものだったのでしょう。

 経営破綻の前後で多くのお客さまにご迷惑をおかけしましたが、あらためて振り返ると、問題の一つは採算意識だったと思います。当時、稲盛会長(現・名誉顧問)が記者会見で「これでは八百屋の経営も難しい」と漏らしたほど、利益への意識が皆、低かったと思います。もちろん、社会インフラとしての安全・確実な運航というのは最重要事項ですが、それが採算度外視の〝免罪符〟となって、いろいろなものが聖域化されていったように思います。
 また、組織自体の縦割り意識も強く、たとえばパイロット、整備士、キャビンアテンダントが自分の専門以外のことや、会社全体のことに関心が薄い。当然、柔軟な対応ができず、組織が硬直します。決して皆が雰囲気を悪くしようとしていたわけではありませんが、いつしか、そんな企業風土が根づいていったのだと思います。

――そうした状況下で、稲盛氏はまず役員やリーダー層への研修を月に十数回も設けたそうですね。どんな指摘があったのですか?

 私も役割上、幹部社員に対する研修の場に同席する機会がありました。稲盛会長からは、たとえば「リーダーには計画を必ず達成するという強い意志がなければならない」という話がありました。単純な話ですが、私自身も〝言い訳〟を考えることに時間を費やした経験がありましたし、反省する点は少なくありませんでした。
 また、「うそをつくな」「正直であれ」といった、極めて当たり前のことが多い印象でした。当たり前のことを当たり前にする。それが難しいのかもしれません。

1機を飛ばすために

――そんな中で策定された「JALフィロソフィ」とは。

「全員がもつべき意識・価値観・考え方」をまとめたものです。破綻から1年後にグループ全社員に公開しました。
 先ほどの話と同じく、決して難しい内容ではありません。「経営の目的は、社員の幸福である」という稲盛会長の哲学のもと、「社員の幸せ」「お客さまへの最高のサービス」「利益を上げて社会に貢献する」という3点を柱にした企業理念を実現するための考え方として、「すばらしい人生を送るために」の第1部、「すばらしいJALとなるために」の第2部、全40項目で構成されています。
 ただ、これを制定するだけでは意味がありません。社員全員が理解し、腹に落としてくれるよう、手帳にして配りました。毎日手に取ってもらうとともに、一人につき年3回のJALフィロソフィ教育も行っています。
 研修では、グループ社員も含めたグループトークを初めて取り入れました。縦割りや会社間の上下関係を廃し、あえてごちゃまぜにすることで、業種や立場を超え、どんな業務も1機の飛行機を飛ばすために欠かせないこと、皆「チームの一員」であることを説明してきました。

一人ひとりが経営者

――「人づくり」も経営戦略の一つに位置づけられていますね。

はい。多くの航空会社がある中でJALを選んでいただくには、やはり〝人〟が重要だと考えています。
 現在、JALでは「アメーバ経営」と呼ばれる部門別採算制度(会社を小集団に分け、それぞれが採算を最大化する経営管理手法)を取り入れています。一人ひとりが〝経営者の目線〟で、会社のために何ができるのかを常に考えて行動する。JALフィロソフィはその拠り所であり、部門別採算制度とともに再建の両輪を成しています。
 JALフィロソフィの中に、「最高のバトンタッチ」という言葉があります。1機の飛行機を飛ばすために、営業、カウンター業務、機内食の調理、手荷物・貨物担当、整備士など、たとえお客さまと直接ふれ合う機会がなくても、全員がベストを尽くし、最高の状態で次のスタッフに仕事を引き継ぐ。こうした言葉が社内の〝共通言語〟になるにつれて、私自身も、以前はなんとなくよそよそしい雰囲気を感じたJALグループに、温かいものを感じるようになりました。そうした環境が、よい「人づくり」にもつながると考えています。

――仕事に喜びを見いだすには、何が必要だと思いますか。

 やりがいや喜びは、会社が何のために存在するのか、自分が何のためにそこで働くのか、その意義が分かれば、感じられるのではないでしょうか。理念と自分自身の行動の意味がつながったとき、きっと実感できるはずだと私は思います。

天理時報2016年3月26日号掲載

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【いせだ・まさき】1967年生まれ。日本航空㈱意識改革・人づくり推進部フィロソフィグループ・グループ長。90年入社。中国・北京の総務担当などを経て、2010年5月から現職。