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パリから東北復興祈る 変化した仕事への意識

永尾 育子日本政府観光局パリ事務所職員

永尾育子

 2011年3月11日。東日本を襲った大震災は、遠く海を越えてパリの街も〝揺るがしていた〟。
「日本へ行っても大丈夫か?」「水や食事は問題ない?」。フランスでの観光広報を担う日本政府観光局パリ事務所には、震災直後、訪日予定客や現地メディアから多数の問い合わせが殺到した。
 当時、勤務3年目。「日本がどんな状況なのか私たちも把握できなかった。自分の対応や発言が、どんな影響を与えるか分からないという不安があった」
 パリの南、アントニー市にある天理教ヨーロッパ出張所で生まれ育った。大学卒業後、アルバイトのつもりで提出した履歴書。「フランスと日本の架け橋になりたい」と書いた。そのひと言が担当者の目に留まった。
 しかし、「もともと観光に興味があったわけではなく、父からは『人のためになる仕事を』と言われてきた。だから、この仕事が父の思いに沿うものなのか、いつも心のどこかに引っかかっていた」という。
 東日本大震災から1カ月後、パリ事務所で日本国内の観光情報や各地の魅力を伝えようと、Facebookページを開設することになり、担当者に指名された。いま、日本の何を伝えるべきか。
 フランスの話題にも考慮し、毎日テーマを設けて、日本の歴史からアニメ文化まで幅広く紹介。また、昨年からは、約25万人が訪れる日本文化展覧会「Japan Expo」で司会も務め、観光地としての魅力を伝えた。「東北の復興、日本の未来につながれば」。どの業務に込める思いも同じだった。
 昨年、日本を訪れたフランス人観光客は15万4000人。震災前と比べて、1.5倍に増加した。
「この仕事を通じて被災地の応援ができたなら、父の思いに少しは応えられたかもしれない」
 入社から8年。いま、こう感じている。「自分を生かす職場に、巡り合えた」と。

天理時報2016年9月11日号掲載


【永尾育子】日本政府観光局パリ事務所職員(教会本部ようぼく・フランス)