JOYOUSLIFE(ジョイアスライフ) - あなたが陽気に 世界を陽気に

Special Interview

〝女子目線〟の育成論

八ッ橋 孝江天理高校女子バレーボール部監督

塚本 順子天理大学創作ダンス部部長


 天理スポーツを牽引する指導者が、ジャンルを超えてその育成哲学を語る第3回。70歳を超えてなお現役の指導者として、昨年には天理高校バレーボール部を〝春高〟へと導いた八ッ橋孝江さんと、天理大学創作ダンス部部長として、スポーツ教育学の観点から研究を続ける塚本順子教授に、〝女性アスリート〟の育成について語ってもらった

――お二人とも女性アスリートの育成に長く携わっておられます。男性を指導するのと、どのような違いがありますか。

八ッ橋 スポーツを指導する人間には、必ず目的と目標があります。私は、スポーツの目的はやはり人間形成だと思いますね。それを前提として、目標を全国大会出場に置いています。
 こんなことを言うと批判を受けるかもしれないけれど、男の子はね、正直だし単純明快です(笑)。目的と目標をしっかり理解できれば、チーム内の人間関係が多少ぎくしゃくしても「チームのために」と割りきることができる。女の子は、それが難しいんですよ(笑)。

塚本 私もそう思います。心理的なメカニズムの差ですね。ダンスは感情表現なので、学生の心の変化がとてもよく分かるんです。「あ、何かあったな」というときは、部員同士に微妙な距離感のようなものがあって、たとえばリフト(一人が相手の体を持ち上げる動作)をするときも、体が拒否しているのがはっきり見えます。

ダンスが薄っぺらになる!?

八ッ橋 チームのコミュニケーションがうまくいっていないのに勝つなんて、あり得ませんよ。最近はスマートフォンによる問題もあるでしょう? 生徒たちの人間関係の悩みも複雑になっている気がします。

塚本 そうですね。創作ダンスは、日ごろから芸術に触れたり感じたりすることが、とても大事なんですが、いまはわざわざ美術館へ行かなくてもスマホですぐに調べられる。それで「自分は分かってる」と思って、形だけ取り込もうとする。だからダンスが薄っぺらになる。そこで悩んで落ち込む。そんな学生が多い気がしますね。

八ッ橋 私は生徒に「間接的なコミュニケーションはだめよ」って言うんです。直接会って話すことで、目線とか息づかいから感じ取れるものって必ずある。全国大会へ行くためには、そうした洞察力も絶対に必要ですし、仲間と気持ちが合わないままコートに入ってもミスにつながるだけです。

塚本 指導者自身も変わっていく必要がありますね。SNSが普及する一方で、プライベートでは、お互いにあまり踏み込まない風潮もあるからです。そうした部分を壊すのでなくて、「こうやって声をかけてあげて」とか「ちょっとフォローしてあげてね」とか、促していかないといけない。
 先ほどの女性の特性でいえば、監督を皆で支えようとか、先輩を表彰台に上げようとか、いったんメンタルの部分でつながったら、女の子は強いですよね。母性的な部分にも関わると思うんですが。

八ッ橋 本当にそうですね。だからこそ、指導者との信頼関係が大切なんです。特に女性アスリートを育てる指導者は、言動に一貫性がないといけない。自分自身が問われるんです。
 それと、平等であること。「あの子には声をかけたのに、私にはない」とか。同性だから分かるんですが、そういうところを女の子はよく見ているのよね。

「人として素敵であるか」の視点

――指導の中で「女性らしさ」という点も強調していると聞きました。一方、近年はジェンダー(社会的・心理的性別)に関する議論も進んでいます。その点は、どのように考えていますか。

塚本 確かに、ダンスを指導する中で女性らしい言葉づかいや仕草を大切にしています。私自身も教育現場でジェンダーに関わる問題に直面することがありますが、私はまず「人として素敵であるか」という視点で考えるべきだと思います。その前提を大切にしながら、言葉づかいや立ち居振る舞いを含めて、指導していくようにしています。

八ッ橋 私は、部員にお茶の出し方も教えますよ。もちろん、男女は平等・同権ですが、それは「らしさ」を説いてはいけないということとは違います。塚本さんの言う通り、性別に関係なく、素敵な人は人間的に魅力があるもの。そうした議論がなされるほど、品格や人間性の美しさが問われるのではないでしょうか。私はスポーツを通じて、それを求めていきたい。

パーソナリティーが問われる

塚本 教職に就いて以来、数えきれないほど多くの場所でスポーツを教えてきたのですが、天理というのは本当にすごい所というか〝普通ではない環境〟ですよね。さまざまなジャンルで、世界クラスの選手や指導者が身近にいる。〝世界への近さ〟とともに、そこへ行くには途方もない努力が必要なこと、そして人間力が大切なことを、日常生活の中で直接見聞きすることができる。そうしたことを自分で咀嚼して、いかに生きていくかを考えられる人間を社会へ送り出したいですね。

八ッ橋 全国大会で勝って、仮に〝天狗〟になっても、世界を知っている先輩が叱咤してくれますものね。なぜ勝てたのか、なぜ負けたのかを教えてくれる人がいる。これは当たり前のようで、当たり前ではないと思います。
 いま、アスリートのパーソナリティーも問われる時代ですが、指導者がその土台をきちんとつくってやる。姿を見て皆が憧れるような、そんな選手を育てていければと思います。

天理時報2017年9月24日号掲載

この記事に関するオススメ記事はこちら



【やつはし・たかえ】1946年、香川県生まれ。東京女子体育大学卒。天理高第2部など管内の各校で教壇に立ち、2005年から現職。昨年、天理高校バレーボール部を3年ぶり2度目の春高(全日本バレーボール高校選手権大会)出場に導いた。北横濱分教会教人。

【つかもと・じゅんこ】1965年、大阪府生まれ。神戸大学大学院卒。専門は舞踊学・舞踊教育学。京都大、同志社女子大などの非常勤講師を経て、97年に天理大へ。スポーツ教育学などを教える一方、創作ダンス部の指導に当たっている。同大体育学部教授。



1