JOYOUSLIFE(ジョイアスライフ) - あなたが陽気に 世界を陽気に

アメリカの〝文化的深層崩壊〟としてのトランプ大統領誕生

島田勝巳天理大学宗教学科教授

 まさに歴史的な大番狂わせである。
 アメリカ大統領選挙で、ヒラリー・クリントン氏を抑え、ドナルド・トランプ氏が勝利した。
 選挙結果から見れば、勝敗の分かれ目は「ラストベルト」(錆びついた工業地帯)と呼ばれる中西部から北東部の各州にあった。トランプ氏は、かつて製造業・重工業で栄えたこの地域の人々の鬱屈した感情を、過激な発言や大胆な政策の提示によってうまく掬い上げ、これらすべての州で勝利したのだ。
 したがって、政治的・経済的な視点から見れば、今回のトランプ氏の勝利は「急速なグローバル化に反発する市民的抵抗の表出」とも言えるものであった。その意味で、有権者にとっては合理的な根拠に基づく合理的な投票行動だったのである。
 だが、問題はさらに根深いところにある。
 そもそも民主主義とは、人々の多様な意見を代弁させるための、単なる一つの政治手法なのではない。それは、何らかの価値的・倫理的な基盤に支えられてこそ成立し得る政治システムである。米国の民主主義の特徴は、他国にも増して、それがある種の〝神聖性〟を持つと信じられてきた点にある。
 たとえば、大統領就任式の宣誓の際に聖書に手を置くという伝統は、自らを超越の眼差しの下に置くという意味で、それを象徴している。また、先住民族や黒人に対する差別や暴力が繰り返されてきたにもかかわらず、彼らがアメリカという国に対して、なおも希望を持ち続けられたのは、そうした問題を解決するための拠り所として、自国の民主主義が持つ神聖性を、信じ続けてきたからにほかならない。
 従来の大統領選挙においては、感情的で扇動的な候補者はいち早く脱落していった。それは米国民の多くが、そうした候補者が「民主主義の長」として不適格だと判断したからである。子供たちの〝ロールモデル〟でもある大統領に、どのような人物がふさわしいかは、容易に想像できる。
 こうした意味で、トランプ氏がメキシコとの国境に造ると語った「壁」という言葉は象徴的である。そこには、単に物理的な意味に留まらない、価値的・心理的なニュアンスが滲み出ている。
 もちろん、民主党と共和党の分断や亀裂は決して真新しいものではない。むしろ米国の民主主義は、常にその両極の間で揺れ動きながら、鍛え上げられてきた。
 だが今回、そうした分断、あるいは融合を可能にしてきた民主主義というプラットフォームの神聖性それ自体が脅かされているのだ。そうした意味で、トランプ氏の勝利はまさに、米国の〝文化的深層崩壊〟とも言うべき現象であるように思われる。
 米国の民主主義の〝底力〟が、真に試される4年間になるだろう。

天理時報2016年11月27日号掲載




1