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「他人の庭を掃きに行け」 世界と闘う強さの秘訣

土岐 文二スバルテクニカインターナショナル(株)(STI)パワーユニット開発エンジニア

土岐文二


 質実剛健、〝エッジ〟の効いたデザイン――。玄人好みで、熱烈なファンが多いスバル。国内外の自動車レースで、同社のチーム統括を務めている。
 天理高校在学中から、エンジニアを目指してきた。短大卒業後、「どうせなら世界を目指したい」とSTIへ。先輩からは「他人の庭を掃きに行け」と、自分の持ち場や立場に留まらない仕事の仕方を叩き込まれた。
「最大手と比べると、ウチは研究開発の予算も数分の一。けれど、それをハンディとは思いたくない」
 多くのレースで常に上位入賞を果たしてきたスバル。その強さについて尋ねると、あるレースを振り返った。
 2007年、国内最高峰の自動車レース「スーパーGT」に臨んだスバルは、車の相次ぐトラブルに悩まされていた。「一つ直せば、別の不具合が出る。車のポテンシャルは高いのに、それを発揮させられなかった」
「ここはこうしたほうが」「それならあそこも」……。社員はもとより、部品メーカーの担当者も、時間を忘れて協議した。全員が「他人の庭」の様子を気にかけ、心を配り、会社や部署の垣根を越えて話し合った。
 迎えたGT第4戦。残り15周で、突然ドライバーがマイク越しに叫んだ。「エンジンがおかしい!」。ピットインすれば順位は落ちる。「走りきるしかない」。そう判断しドライバーに伝えた。チーム全員が固唾をのんで見守る。「車が、皆の思いを乗せているように見えた」
 結果は5位入賞。輝かしいレースではなかったが、完走した車を前に、みな泣いていた。
「目の前のことに全力で取り組み、たすけ合うから、やりがいが生まれる。その思いをみんなが共有できたとき、ハンディは〝武器〟になる」
 車は翌年、目を覚ましたかのように初優勝を果たした。

天理時報2016年1月29日号掲載