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Special Interview

「俺以外に誰がいる?」 そんな選手が世界へ行く

細川 伸二天理大学柔道部師範

小松 節夫天理大学ラグビー部監督

細川伸二小松節夫

 現役時代は世界の大舞台で活躍し、現在は指導者として五輪メダリストや日本代表選手など、「天理」の名を背負って世界で戦う人材を多く育ててきた両氏。天理が誇る〝名将〟二人に、その育成哲学を語ってもらった。
 初回のテーマは「世界で戦うためには」――。

――自身が選手から指導者になったとき、どんなことを考えましたか。

細川 天理大学へ監督として戻ってきたとき、私自身は現役を引退しておらず、選手としてソウル五輪を目指していました。当時は指導者兼選手という感じでした。
天理高校時代の恩師は、選手と同じ寮で暮らし、選手と長い時間を共にしておられたので、それを参考にしましたね。学生時代は鋭い目でガッと見られただけで、震え上がってピシッとなってしまうくらい怖い先生方がたくさんいましたが、それをまねようとしても、私にはできませんでした。

勝利に何をプラスできるか

小松 昔は、そういう先生がたくさんおられましたよね。
私の場合、天理中学と天理高校で厳しい練習を経験した後、管外の大学や海外チームの、練習量が少なくて考え方も違う環境でプレーしましたが、厳しい練習をしてきて良かったなと思います。理不尽と感じたことも含めて、さまざまな指導者と接する中で感じた〝取り入れるべきこと〟をミックスしています。「若いころに、これを教わっていたら良かった」と感じたことを、そのまま指導に生かしています。

――選手を指導するうえで、どんなことを伝えていますか。

細川 若いころは、とにかく「勝て! 勝たないと何にもならん」と言い続けていました。
しかし、指導者としてキャリアを積み重ねるうちに、いつしか「勝つことや強いことよりも大切なことがある」という考え方へ変わりました。つまり、生き方ですね。勝つことは大切ですが、それに〝プラスするもの〟が、やはり必要なんです。

小松 私も「チームとしては勝たないと」と、もちろん考えますが、150人の部員の中でレギュラーは15人。10分の1です。だからこそ、たとえ大学生でも、チームが勝つために何ができるかを考える〝プロ意識〟が大事になってくると思いますね。
大学生のときからそうしたことを考えてほしいし、一人ひとりが意識しなければ、結果的にチームは勝てないと思います。

強い者だけが気づくこと

細川 実は、最近のラグビー部の学生たちを見ていて、気づいたことがあります。全国大会で勝ち始めたころから、普段の生活態度が明らかに変わったと思うんです。

小松 そうですか? 確かに良くなったかもしれませんね。

細川 やはり競技を問わず、強くなろうとするうちに気づくことがあると思います。〝人として〟どうありたいか。それが見えてきたのでしょう。

小松 そうですね。ただ、最近は全体的に選手の気質が変わってきたと思います。
たとえば、いまの選手は、やたらと「笑顔でいること」を気にするんです。試合で負けた後も、敗因について分析せずに「笑顔が無くなっていた」ことを指摘し合っている。そうした風潮が私は気になります。笑顔でいることは、緊張をほぐして自分のパフォーマンスを発揮するための一つの手段であるものですが、とにかく笑わなければと勘違いしているように感じます。
その点、柔道ではどうですか?

細川 最近、増えてきていますよ。私は、試合が楽しいわけはないと思うんです。私たち指導者を含め、手段と目的をはっきりさせなければいけないと思います。

「天理」の名を背負って

――今後の展望を考えたとき、どのようなことを選手に求めますか。

小松 もちろん、目標は大学日本一です。最近の高校生の進路を選ぶ基準を見ていると、「あそこなら全国へ行ける」「○○大学ならレギュラーになれる」という考え方をしている生徒が多いように思います。
ですが、私は「俺が天理大学を日本一にしてやる」という選手に入部してもらいたい。自分の目標、自分が何をすべきかが分かっている選手です。
「天理」の名を背負ってプレーする選手には、そうした考えを持ってほしいですし、そんな選手を育てていきたいと思います。

細川 やはり、25年近く達成できていないインカレ団体戦での優勝を目指したいですね。そして2020年の東京五輪に、天理から一人でも多く代表選手を送り出す。これが当面の目標です。
柔道をするうえで、天理ほど恵まれた場所はないと思います。ただ、小松監督が言うように、その環境で育ててもらうのを待っていては強くなれない。たとえスポーツでは芽が出なかったとしても、卒業後に天理で培った経験を周囲の人や後輩、社会のために役立てる。これまでも、天理からはそんな人材が数えきれないほど輩出してきました。人として大切なことが学べる場所がある。それが「天理」でスポーツを修める魅力でしょうね。

天理時報2017年5月28日号掲載

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【ほそかわ・しんじ】1960年、兵庫県生まれ。中学1年から柔道を始め、84年ロサンゼルス五輪で金、88年ソウル五輪で銅メダルを獲得。現在、天理大学教授。同大の指導者として野村忠宏氏ら名選手を数多く育てた。
【こまつ・せつお】1963年、奈良県生まれ。自身も選手として天理高校時代から活躍。フランス留学後、同志社大学を経て、社会人チームの日新製鋼へ。95年から現職。2011年、全国大学ラグビー選手権で初の準優勝を果たした。

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